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「越境」と「共創」で組織の限界を超えていく
「東工大DX」に見る「リソース減少時代」の企業成長の方程式

 2022.03.24  BJCC

「越境」と「共創」で組織の限界を超えていく——「東工大DX」に見る「リソース減少時代」の企業成長の方程式01

企業を取り巻く環境は今、急速に変わり続けています。変化のスピードがあまりにも早く「正解」が見えない中、高度経済成長期に有効だった、「ナレッジや人材を抱え込むことで競争力を高める」——という戦略には限界が見えています。

こうした中、組織が生き残るためのキーワードとして昨今注目されているのが、「越境」と「共創」です。企業間や組織、チーム、個人を隔てる“境界を越えた共創”が、従来の“排他的な競争”に変わる成長のカギとなるのではないか、というわけです。

その兆候は、社会の中で既に少しずつ見え始めています。

成長企業は企業の壁を越え、自社のビジネスに相乗効果が見込める他の企業や研究機関などとのコラボレーションに意欲的に取り組み始めており、個人の働き方も、1つの組織に縛られずに働く「副業・兼業」が注目を集めています。

さらに企業の勤務形態も、ハイブリッドワークはもはや当たり前になり、会社側が決めた場所や時間の枠組みだけでなく、各自のライフステージに合わせて「働きやすい場所で、働ける時間に働く」という選択ができるようになりつつあります。

このような大きな変化に対応しながら、組織のパフォーマンスを最大化するために、企業はどのような組織をつくり、「共創」の基盤を整えていけば良いのでしょうか。

このテーマについて話を伺ったのは、「国立大学法人」という「制約が存在する組織」において、産学連携のコラボレーション施策に携わり、それを円滑化するためのシステム設計やセキュリティ教育、DX施策を推進している、東京工業大学 学術国際情報センター 准教授、東工大CERT統括責任者・副CISOを務める松浦知史氏です。

DXやセキュリティの施策に取り組む中で見えてきた「共創」社会における理想的な組織のあり方、その実現のためにすべきこと、実現を阻む課題の乗り越え方について、松浦氏にお話しいただきました。

「越境」と「共創」で組織の限界を超えていく——「東工大DX」に見る「リソース減少時代」の企業成長の方程式02

【松浦知史氏プロフィール】国立大学法人 東京工業大学 学術国際情報センター 准教授。2008年3月、奈良先端科学技術大学院大学 情報科学研究科 博士後期課程修了。同大特任助教、特任准教授を経て、2014年1月より現職。博士(工学)。セキュリティ人材育成プログラムである「IT-Keys」および「SecCap」に携わったのち、情報システム緊急対応チーム(東工大CERT)の立ち上げに参加。現在、その統括責任者として、情報セキュリティに関する基盤整備やサービス導入、インシデント対応や学内脆弱性調査、セキュリティ教育、研究等に携わる。

セキュリティの世界では越境・共創が「当たり前」に

——: 松浦先生は「東工大CERT」の立ち上げに参加し、現在は統括責任者を務めていらっしゃいます。きっかけは何だったのでしょうか。

松浦知史: 
私のキャリアの話をすると、最初はインターネットに関連する研究室に所属し、分散ネットワークやセンサーネットワーク、IoTなどの研究からスタートしています。
ネットワークの研究をしていると、セキュリティは回避できないテーマです。

正直なところ、昔はどちらかというと、セキュリティに対する抵抗感のようなものがありましたね。何をするにも「あれはだめ、これもだめ」と「かせ」をはめるような、面倒くさい存在だと感じていました(苦笑)。

ただ、世の中のセキュリティに対する要求というのは、高まる一方でした。そうした状況の中で、10年ほど前に、当時の指導教員であった砂原秀樹先生や同じ学内の山口英先生などが中心になって、大学の枠を越え、セキュリティ教育をしていくという先導的な活動を始められました。私も運用まわりを手伝いながら、セキュリティ教育に関わるようになったのです。

当時は、さまざまな大学で、Web改ざんなどのセキュリティインシデントが多発していました。東京工業大学(以下、東工大)でも、組織としてセキュリティ対策を強化し、教員をつけて教育体制を作っていきたいという意向があり、私はそのタイミングで東工大に着任しました。

そして、コンピュータセキュリティインシデントへの対応活動を行う組織である「東工大CERT」、一般には「CSIRT」(Computer Security Incident Response Team)と呼ばれるセキュリティ組織の立ち上げに関わり、今は統括責任者を務めています。

——: 今回は「越境」と「共創」がテーマなのですが、松浦先生のこれまでの経験の中で、この2つのキーワードが重要になっていると感じたことはありますか。

「越境」と「共創」で組織の限界を超えていく——「東工大DX」に見る「リソース減少時代」の企業成長の方程式03

松浦知史: 私が専門としている「コンピュータセキュリティ」の世界では、実はかなり昔から当たり前のように「越境」と「共創」、分かりやすく言えば「組織の枠を越えた協力」や「情報と成果の共有」がおこなわれてきました。

というのも、この分野には「悪意を持った攻撃者」という「明確な共通の敵」が存在していて、彼らに対抗していくためには「組織を越えてみんなで知恵を出し合う」ことが不可欠だったからです。

各組織間のつながりには、公開されているものも、非公開のものもありますが、民間企業、大学、団体、研究者の間で情報を共有し、対策を講じる——ということが、もう十年以上に渡って続けられています。

個々のメンバー単位で見れば、ビジネス面や業績面で競合する部分もあるのですが、セキュリティ領域でプレゼンスが高い企業や組織ほど、多くの情報を共有している傾向があるように思います。そうしなければ、常に変化している攻撃者の動向や攻撃手法についてのトレンドを察知して、予防的措置ができないこと、それが社会全体の不利益になることを、参加しているすべてのメンバーが理解しているからでしょう。

——: セキュリティ領域で「越境」と「共創」が盛んな背景には、姿形や手口が変わり続ける「共通の敵」に対して、先手をとり続けなければならない——という、切実な事情もあるのですね。話をセキュリティ領域から、社会全体に広げたときに一般企業にも同じことが言えるのではないかと思いますが、「越境」や「共創」が求められる背景となるような「共通の敵」は何でしょうか。

松浦知史: 少し、視点が変わりますが、「社会全体で利用できるリソースが減少トレンドにあること」が挙げられるのではないでしょうか。特にこの先、日本を筆頭に多くの先進国が直面する「人口の減少」は、極めて大きなインパクトがあると思います。

これからの日本は、消費者や労働者が減少し、高齢化が進んでいくことは避けられません。それにどう適応するかは、「企業の存続に直結する切実な課題」といえるでしょう。大学や研究機関も同様で、人口が減り、教育や研究に使える予算も徐々に減らされる状況が、この先続いていくことが確定しているわけです。

「リソースが減少していく」未来が見えている以上、企業や組織が互いの垣根を越えて力を出し合い、全体で成長していける枠組みの必要性は増します。人口が右肩上がりに増え、ものを作れば作るだけ売れるという高度経済成長期のモデルは、もはや通用しません。リソースを共有していかなければ、全体で共倒れになるリスクすらあるわけですから、特にリソースの枯渇が厳しい領域ほど「越境」と「共創」は不可避になると思います。

「教員と職員」「トップと現場」の越境で価値を生みだす「東工大DX」

——: 松浦先生は東工大で、セキュリティ組織の運営と合わせて、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みにも関わっておられます。そうした活動も含めて、大学の中で「越境」「共創」が具体的に実践されている例としては、どのようなものがありますか。

松浦知史: 大学全体の視点で言えば、東工大は理工系に強い大学ですが、文系教育にも昔から力を入れています。現在は「リベラルアーツ研究教育院」という組織を設け、東工大の学生が、社会の中でリーダーシップを発揮したり、志を持って社会の課題解決に取り組んだりできるようになるための基礎力をつけることにも力を入れています。これは、文系と理系の垣根を越えた「共創」の取り組みと言えると思います。

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東工大の「リベラルアーツ研究教育院」のサイト(https://educ.titech.ac.jp/ila/

また、企業との共同研究も拡大しています。これについては、企業には研究力が、大学には予算が不足しているという背景もあるのですが、企業の経済力、大学の知識と研究力を互いに出し合い、成果を共有してWin-Winの関係、つまり「共創」していこうという試みが意識的におこなわれています。

また、東工大では私も関わってDXへの取り組みを推進しているのですが、これは、よりミクロに「教員と大学職員」「研究室と研究室」「経営と現場」の越境を通じて、みんなにとってメリットのある新しい情報環境を「共創」していこう、という動きになっています。

——: DXの取り組みを進める上で「組織内の壁」を越えることが必要だったのですね。

松浦知史: これは「リソースの減少・不足」への対応策として、避けて通れないものだったと思います。

大学では、教員だけでなく、多くの事務職員の方々も働いています。人や予算が減っていく中で、大学に関わるすべての人が、できるだけ効率的かつ快適に、研究や業務を進めるため、ベストな情報(データやコンテンツ)活用やコミュニケーション、コラボレーションのプラットフォームを整えていく必要がある。そのための知恵やアイデアを、教・職の区別なく出し合い、話し合って決めていこうというのが、基本的な方針になっています。

目標を達成するためには、教員、職員のすべてが、自分たちが仕事の中で扱う情報をフラットに共有できる環境、つまり「情報の透明性」が確保できる環境が必要だという点も合意されました。具体的には、情報の集積やコラボレーションに「Box」、コミュニケーションには「Slack」「Zoom」を学内の共通プラットフォームとして導入し、その上で研究や業務を進める環境づくりを進めています。

これまでに比べて、誰もがより多くの学内の情報にアクセスできるようになったことから、情報の非対称性による格差が少なくなり、「今、自分たちの大学がどこを目指して何に取り組んでいるのか」を、誰もが「自分ごと」として捉えられるようになる素地ができたと思います。

——: 基盤となるツールを統一して、情報をフラットに共有、活用できるようにしたいというニーズは一般企業でも高いのですが、「情報のサイロ化」という言葉があるように、組織やシステムの壁がそれを阻み、抱え込まれた情報共有や、システムの統一がスムーズにいかないというケースが少なくありません。東工大で、そうした環境づくりがうまく進められている理由は何だと思いますか。

「越境」と「共創」で組織の限界を超えていく——「東工大DX」に見る「リソース減少時代」の企業成長の方程式05

松浦知史: 正直なところ、情報が「オープン」にされることの是非や、ツールを統一することに対する是非というのは、導入以前にも議論されましたし、現在も抵抗を感じている人はいると思います。ただ、それも織り込んだ上で、話し合いの中で合意をとり、納得した上で垣根を取り除いてきました。

この新たな情報基盤が受け入れられ、学内に浸透しつつある理由としては、東工大の教員、職員の中に「自分たちの仕事を、もっと快適に進められる環境を作りたい」という強い思いを持った人たちがおり、彼らが自発的に手を挙げて、動いてくれたことが大きいと思います。

ここに至るまでに、各部署の中で、業務環境に課題を感じていた人たちが、この取り組みを通じて自然発生的に「チーム」として組織されていったのです。今では、東工大DXにおいて、公式なプロジェクトチームのひとつである「活用推進PT」として活動しており、各部署におけるアンバサダーとしても、新しい環境の浸透に貢献しています。

——: 全学的な取り組みに対して、各部門から自分ごととして人が集まり、組織として機能するようになったというのは素晴らしいですね。その動きを促進するために、意識したことはあるのでしょうか。

松浦知史: まず「全体として、こんなことをやろうとしている」という情報を広くオープンにしたというのがありますね。情報がオープンになっていれば、それを見聞きした人達が、そのテーマを「自分ごと」として捉えやすくなります。

「やりたい」と声を上げた人を、組織がうまく拾い上げる枠組みもポイントでした。東工大DXの場合、教員から上がった声をいち早く察知し、その活動に職員が賛同し協力してくれたという流れがありました。そうした自然発生的な教職共同の体制が作れたことは大変幸運でもあり、その後の展開にあたって大きくプラスに働きました。

最後に、これが結構大切で、かつ難しいポイントでもあるのですが、そうした現場の取り組みを、理事や経営層のような「トップが認めてくれる」ことですね。自分たちの取り組みが、組織に貢献していると認められるというのは、大きなモチベーションになりますし、取り組みを継続させていく上でも必須です。

——: 一般企業においても、「DXは経営課題として、組織全体で取り組む必要がある」とされていますが、現場と経営との意識にギャップが大きいという点で課題を感じるケースは多いようです。

松浦知史: そこについては、「トップ層とのコミュニケーションを、活動の枠組みにどう入れ込むかを設計しておくこと」が必要だと思います。

私の場合、専門はセキュリティですが、その委員会には、大学の役員や事務部門の管理職、各学院の学院長クラスの先生方にも参加してもらい、その時ごとに重要なセキュリティのトピックを話すことを続けてきました。

それを繰り返すうちに、トップ層の中に「そういえば、うちにはITセキュリティに詳しい松浦さんって人がいたな」と思い出してくれる人が現れ、何かちょっとしたことでも、相談したり、情報を共有したりしてくれるようになってきました。今回のDXに向けた取り組みは、そうした下地もあってうまく進められた——という側面があると思います。

——: 松浦さん自身も、「トップと現場」「教員と職員」の境界を越える「越境者」であることを意識して動いていたのですね。

松浦知史: それは、自分だけではありません。今回のプロジェクトに関わったメンバー全員の中に「大事なことについてはトップと対話し続ける」という意識が共有されていたように思います。「われわれは、トップに対して繰り返し情報を伝え、トップには、その中から良いと思うものを選んで決断してもらう」——という空気があったのが大きいですね。

もちろん、トップが提案に興味を示さなかったり、却下したりということもあるわけですが、それでも自分が必要だと思うものについては「必要ですよ」と言い続ける。これは、ともすると「若造がトップに歯向かっている」と捉えられてしまう危険性もありますが、筋を通して話をしていれば、周囲にいる別のキーマンがそれを聞いていてくれて、そこから思いがけず、変革へのきっかけがつかめることもあります。

セキュリティでもDXでも、現場から組織へ変化を拡大させていこうとするときには、そんな地道な積み重ねが大切なのではないでしょうか。

「組織のパフォーマンスを高める」という意識が「共創」の芽を育む

——: 東工大DXでは、各部署から自主的に参加したメンバーが自然に組織化され、大きな役割を果たしているというのが印象的です。どうすれば、組織の中に「越境」「共創」につながるようなマインドセットを育てていくことができるのでしょうか。

松浦知史:直接的な答えではないかもしれませんが、私は研究室で学生を指導していた際に、個人のスキルを高め、実績を作ることも大事だけれども、それと同じくらい「どうすれば組織としてのパフォーマンス向上に貢献できるかを、常に考えるようにしてほしい」と、具体的な言葉で伝えていました。

というのも、これまでのキャリアと経験の中で、「個人のスキルや、がんばってできることには限界がある」と実感してきたからです。個人の成長は大切ですが、そうした個人が集まって組織として動いた方が、より高いパフォーマンスが出せるし、大きな成果につながることは、これまでの経験からも明らかなのです。

東工大CERTでは「僕らは、東工大の学生、教員、職員が全力疾走できるよう、ネットワークというグラウンドの草むしりやとんぼがけをするのが仕事だ」と言っていますし、使う側の方々にも「自分ごととして、一緒に整備していきましょう」と呼びかけています。

そうやって、まず個々の壁を越え、みんなで快適に仕事ができる環境を整えることが、組織のパフォーマンス向上につながる。その成果が評価されれば、それが自分たちのモチベーションにもつながる——という好循環が生まれます。そうした意識が組織に根付くよう、同じことを、繰り返し、ストレートに伝えるようにしています。

「越境」と「共創」で組織の限界を超えていく——「東工大DX」に見る「リソース減少時代」の企業成長の方程式06

——: メンバー一人ひとりが「組織のパフォーマンス向上」を意識することが「共創」の芽になっていくということですね。

松浦知史: そうなるのがベストですが、現実には「組織全体のことを考えよう」と言われて、みんながすぐ、行動に移せるわけではありません。DXであれば、まずは、よりカジュアルに「組織のみんなにとって、快適で便利な環境を作っていこう」というところからはじめるのもよいと思います。便利なものは、みんな使ってみたいですからね。

ただ、最初のほうでもお話ししたように、これから社会全体で「リソース減少」が進んでいくというのは差し迫った現実です。そうした中で、「手持ちのもの、人、お金といったリソースをいかに有効に使い、育てていくかを考える」というのは、避けられないと思うのです。

まずは、その危機感をベースに「どうしたら組織のパフォーマンスを高められるか」という問いかけを定期的におこない、「機会を見つけてアクションに移していこうとする意識を持つこと」が大切なのではないでしょうか。

組織の中に「限られたリソースを最大限に活用して、全体のパフォーマンスを高めていきたい」という思いを持った人が増え、その思いの総和が閾値を越えると、自然と「越境」「共創」のアクションにつながっていくと思います。

「越境」と「共創」で組織の限界を超えていく——「東工大DX」に見る「リソース減少時代」の企業成長の方程式07

【聞き手:後藤祥子(AnityA) 執筆:柴田克己 撮影:永山昌克】


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