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コミュニティは最高の“武器”――「E-JAWS」会長の虻川氏が
“コロナ禍の今”参加を呼びかける理由

 2021.02.03  2023.01.17

企業を取り巻くIT環境は今、急速に変化しています。デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進や5G(第5世代移動通信システム)への対応、コロナ禍でのテレワーク環境の整備など、情報システム部門が対応すべき課題は枚挙に暇がありません。

こうした環境で仕事をする上で欠かせないのが「実務を遂行する上で真に役立つ情報」の取得です。情報はネットにあふれていますが、情報システム部門が一番知りたい「失敗談」や「失敗からどう立ち直ったのか」といった「リアルタイム」の話は、なかなか表に出てきません。こうした「生きた情報」は“座して待っていても”得られないのが実情です。

「他社の失敗談や経験談といった“業務に役立つ情報”は、勉強会やコミュニティに自ら足を運んでガツガツと取りに行くことです」——。こう話すのは、京王電鉄の経営統括本部でデジタル戦略推進部長を務めるとともに、複数のコミュニティ運営に携わっている虻川勝彦氏です。

虻川氏は、情報システム部門向けコミュニティの黎明期から、立ち上げ間もないさまざまなコミュニティや勉強会に積極的に参加してきたことで知られています。長年続けてきたコミュニティでの有益なアウトプットが評価され、今では運営側としても活動するようになり、「Enterprise-JAWS(略称:E-JAWS)」の会長や、「kintone」のエンタープライズ・コミュニティ「kintone Enterprise Circle(略称:kintone EPC)」の初代会長を務めています。

「情報システム部門で働く人は、コロナ禍の今こそどんどんコミュニティに参加して、外の世界に目を向け、リアルタイムの本音を得てほしい」と話す虻川氏に、その真意をお聞きしました。

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【虻川勝彦氏プロフィール】京王電鉄 経営統括本部 デジタル戦略推進部長。京王ITソリューションズ取締役、感性AI代表取締役社長CEOも務める。コミュニティではアマゾン ウェブ サービスのエンタープライズ向けユーザーコミュニティ「Enterprise-JAWS(略称:E-JAWS)」会長、「kintone」のエンタープライズ・コミュニティ「kintone Enterprise Circle(略称:kintone EPC)」初代会長を務める。

情シス部門の「生の声」を求めてコミュニティに参加

――:虻川さんは、情報システム部門向けのコミュニティが少なかった頃から、積極的に参加してきたことで知られています。そもそもコミュニティに参加するようになったきっかけは何だったのでしょう。

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虻川勝彦: 私の場合は大きく2つの理由がありました。

1つは、「他社システム部門の現場の“生の声”を聞きたかった」からです。

システム部門の人は、システム構築や改修の検討をする際、ITベンダーやSIerとやり取りすることが多いですが、彼らは立場上、どうしても自社製品や自社が担いでいる製品の良いところだけを伝えがちです。またユーザーの使い方に最適でないソリューションを提案しなければいけないこともあります。それは商売上、仕方がないことですよね。

しかし、われわれが知りたいのは「自分たちの使い方に最適なソリューションは何か」「そのソリューションで“できないこと”は何なのか」「導入時・運用時どこでつまずくのか」「問題が出た場合の解決方法はあるのか」といった、「本当はどうなの?」という部分なんです。

こうした「本当に苦労して得た話」は、「実際に手を動かした人」にしか語れません。その点、こうしたコミュニティに集まるのは、企業のシステム部門や事業部門に所属し、現場で手を動かして苦労をしている意識の高い人が多いですから、まさに「施策を実践するのに役立つ情報の宝庫」でした。

もう1つは、他業界の動向を深く知りたいと思ったからです。コミュニティには、業種業界別のものもたくさんありますよね。京王グループは鉄道やバス、百貨店、ホテル、観光など、さまざまな領域の事業を手掛けています。そうしたグループ企業に対してICTを活用した変革の提案、全体最適を見据えた戦略策定をするためには、それぞれの業界の事業環境や動向を把握する必要があったのです。また、他業界でのノウハウやさまざまな取り組みは、自社でのイノベーションにも大変有用なことが多いのも理由の1つです。

―― コミュニティで得た知見は、日常業務にどのような形で役立っていますか。

虻川勝彦: 現場でIT施策に取り組んでいる方々から得られる情報は実践的で、具体的に役立つことが多かったですね。

例えば、システム企画フェーズでは、自社の課題を解決するための最適なソリューションを選ぶ際に、類似の課題を持ち、私たちより先に課題解決に取り組んでいる企業の方々の話を参考にできます。

設計フェーズでは、先に同じシステムを導入した他企業の方から具体的な話を聞くことができるので、「こんな設計をすると、運用フェーズでこんな問題が出てくるから気を付けた方がいい」など、真に役立つ情報を入手できます。

「こういう問題が起こることは先に知っておきたかった」「運用の手間がここまでかかるとは思わなかった」というように、今までならプロジェクトが動き始めてから気づくことが多かった課題を、事前に回避できることがよくあるんです。

また、コミュニティでは意識の高い人が多いので、解決策について一緒に考えてくれる人が多いのも魅力ですね。

さまざまなコミュニティに参加したことで、他業界の京王グループの人たちとのコミュニケーションが円滑になったことも実感しています。

実は、グループ会社の担当者との打ち合せの際に、相手が「業種業界が違う鉄道会社の人間に、こちらの業務が分かるわけがない」と思っていて、あまり深い話をしてもらえていないような距離を感じることもありました。これは、相手の立場に立って考えれば当然だと思います。

しかし、コミュニティで「その業界の他社の課題感と対策を知った上で」打ち合せに臨むと、相手の話をより深く理解でき、的を射た提案ができるようになりました。

また、「情報鮮度」の面でも、コミュニティで得た知識の強みを生かすことができました。例えば、コミュニティで交わされている情報が書籍などになって出版されるまでには、半年から数年のタイムラグがあると感じているのですが、こうした中で、コミュニティを通じて仕入れた「相手が知らないような情報」を提供すれば、「その情報はどこで入手したのですか?」と、さらに興味を持って話を聞いてもらえます。

そうやって信頼関係ができてくると、グループ会社の人たちとも会話が弾み、さらにいろいろな話をしてもらえるようになって、「真の課題」にたどりつくことが多くなりました。こうなれば、その後の仕事はとてもスムーズに進みます。向こうから「こんな情報ありませんか?」と相談を受けることも増えましたね。

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外の世界を知ると「自分の市場価値」が見えてくる

―― コミュニティに参加したことで、虻川さん自身にはどのような変化がありましたか。

虻川勝彦: 最大の変化は「自分の市場価値を客観視できるようになったこと」ですね。

コミュニティに参加して他社の人と話をしたことで、「自分が持っているスキル」と「自分に足りないスキル」が何かを自覚できるようになりました。世の中のトレンドを把握し、「今後、どのような技術やスキルが必要になるのか」を考え、そこに自分のスキルを照らし合わせると「何が不足しているのか、それを補うには何が必要なのか」が見えてきて、自分が学ぶべきことが分かってきます。

こうした「情報のアンテナ」を持つことは非常に重要だと思うんです。変化が激しく、あっという間にこれまでの常識が通用しなくなる「先が読めない時代」には、これまでのように「大企業で働いていれば安心」とはいえません。

一般的な傾向ですが、大企業のシステム部門では、まだまだルーチン化したシステム管理と運用の仕事に忙殺されている人も多く、学びの時間をつくれないケースも少なくありません。しかし、これでは急速に変化する市場や事業環境に、自社のITが迅速に対応するのが難しいだけでなく、「ゆでガエル」(ゆっくりと進む危機や変化に気がつかず、気づいた時には既に手遅れになっていることのたとえ)になっていることすら気付かなくなってしまいます。

―― 変化の時代に「ITでビジネスを加速させることができるIT技術者」が求められることを考えると、システム部門の人間は常に、外の世界をみて自分の実力を測り、必要なことを学び続ける必要があるのですね。

虻川勝彦: おっしゃるとおりです。コミュニティで他社の若手メンバーと話をしている時に、「自分の可能性に気付くことができた」という話を何度も聞きました。

―― それはどういうことでしょう。

虻川勝彦: 日本企業の情報システム部門は、「今の仕事に関係ない新しい技術など学ばなくていい。目の前の仕事を一生懸命やっていればいい」という雰囲気の職場もまだ、多いように聞きます。IT技術者のやる気にフタをしてしまっているケースも少なくないのです。そうなると、次第にIT技術者のほうも「仕事なんてこんなものか」と感じて諦めてしまい、モチベーションが低下してしまう。

しかし、コミュニティで「他社の動きや、新しい技術を知ることができる」と分かれば、さまざまな刺激を受けて、「このままではいけない。もっと自分にもできることがある」と気付くことができます。実際、参加者が「コミュニティを通じてそれが分かって、奮起した」と言ってくれたことが何度もありました。

―― たしかに、コミュニティに参加して、会社の外の世界で起こっていることを知ったり、人脈が広がったりすると、さまざまな意味で選択肢が広がりますね。

虻川勝彦: そうですね。コミュニティに参加し、知識を得るだけでも十分な価値はありますが、より価値を出していくためには、そこで出会った人と信頼関係を築き、そこから人脈をつくっていくことが大事だと思います。私もコミュニティで知り合った人から、ある取り組みのキーマンを紹介してもらって、「win-winの取り組み」につながる関係を築けたことがありました。

ただし、コミュニティを「単なるスキルアップや転職を前提とした場」と考えていると、会社から「あいつはいったい、何をやっているんだ」と思われてしまいますから、コミュニティで得た知見や人脈を「積極的に社内にフィードバックして会社に貢献していくこと」がとても大事です。そうすれば会社側も評価してくれて、コミュニティに参加することを後押ししてくれるようになるでしょう。

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コロナ禍でコミュニティイベントはどう変わったのか

―― リアルで集まって話せるところが醍醐味のコミュニティですが、コロナ禍でそれが難しくなっています。こうした状況の中、虻川さんが関わっているコミュニティはどのような形で運営しているのでしょうか。また、コミュニティを運営する立場から見て、コロナ禍でコミュニティを運営する難しさや、想定外の発見などはありますか?

虻川勝彦: 「E-JAWS」は現在、オンラインでの開催に移行したのですが、よかった点がいくつかあります。1つは参加のハードルが下がったこと。E-JAWSは全国各地に会員がいます。実際に足を運ばなければならないリアルのイベントに比べて、地方に住んでいる方もオンラインなら気軽に参加できますから、今まで出張申請が必要でなかなか東京のイベントに参加できなかった方々も気軽に参加できるようになりました。

一方で、課題として挙がっているのは、インタラクティブな会話をするのが難しい点です。対面ならフランクに話せることも、初対面でオンラインだと会話のキャッチボールがスムーズにいかないことも少なくありません。ですから、メインイベントの後に開催するオンライン懇親会では、「全員が積極的に参加していこう」という意識を強く持てるよう、ファシリテーターを立てて気を配るようにしています。

例えば、オンラインワークスペースサービスの「REMO」や「NeWork(ニュワーク)」の場合は、リアルの懇親会で設置されるような「テーブル」が仮想空間上にあるので、気軽に“立ち話”ができるのですが、初めての参加者は「そのテーブルでどんな話をしてるのか」が「仮想テーブルに参加してみないと」分からず、入ってみても何も話ができず疎外感を抱いてしまうこともあります。ですから、「入室したらファシリテーターが必ず声をかける」等のルールを作り、気軽に話せる環境をつくってあげることが大切だと思います。

―― コミュニティに参加する際、自分に合ったコミュニティはどのようにして見分ければよいのでしょうか。

虻川勝彦: コミュニティも多様化していますから、個人によって向き、不向きはあるでしょう。ただし、それは参加してみないと分かりません。最初は自分が担当している分野や製品のコミュニティ、メディアで気になった人が参加しているコミュニティを探してみるといいでしょう。

コミュニティは、その趣旨や活動内容をWebサイトで紹介しているケースもあります。興味があると感じたら「とにかく参加してみる」ことです。そこで自分に合わないなと感じたら、他のコミュニティに参加すればよいのです。

また、知り合いにオススメのコミュニティを聞くのもよいと思います。実際、私も人から誘われて参加し、コアなメンバーになっているコミュニティもあります。

―― コミュニティに参加する際、気をつけることは何でしょうか。

虻川勝彦: 「(コミュニティへの)参加は気軽に、議論は活発に」を心がけることです。

まずは難しく考えずに興味のあるコミュニティに気軽に参加し、参加したら積極的に発言をすること。会社じゃないので、仮に的外れなことを言っても査定されませんから、勇気を出して、どんどん会話に入ってきてほしいですね。

ちなみにコミュニティで“喜ばれる”ネタは、前述のとおり「失敗談」です。「こんな失敗をして大変なことになりましたが、こんな方法で解決しました」——という話は共感されやすいですし、実務の参考になるので、話すと感謝されます。

また、コミュニティの場は、参加者全員がフラットな関係ですから、お互いに「ギブ&テイク」で「win-winの関係」を構築していくことが大切です。「聞いてばかり、教わってばかり」では煙たがられて終わってしまいますから、まずは自分から話題を提供することを心がけてください。「私も言うから、あなたも教えてね」という関係をつくっていくのが理想ですね。例えその時に思うようなリターンが得られなかったとしても、最終的には「情報は発信する人の元に集まる」ので、継続的な発信をがんばりましょう!

―― 確かに「リアルな失敗談」は、表に出てくることがほとんどありません。コミュニティは、オープンな場では語られない「リアルな情報」の収集場所として重要な役割を担っているのですね。

虻川勝彦: このような「表には出てこないけれど、現場にとって役に立つ情報」は、それが語られる場所に能動的に取りに行かなければなりません。コロナ禍で人と会う機会が激減している今だからこそ、コミュニティを積極的に活用してほしい。コミュニティ活動はシステム部門にとっても「最高の武器になる」と考えています。

そして自社の課題解決や改革を積極的に推進し、その結果をまた、コミュニティにフィードバックしてください!

横のつながりを持つことで「システム部門」の強化を

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―― コロナ禍の環境下でコミュニティに参加する意義はどこにあるとお考えですか。

虻川勝彦: ご存知の通りコロナ禍によって、多くの企業でビジネスのデジタル化を加速させようという機運が高まっています。そして、こうした状況でシステム部門には対応のスピードが求められています。これまで経営層は、システム部門に対して「業務効率化やコスト削減」を求めることが多く、「ビジネスを変革する」という役割を期待していない会社も多かったと思います。しかし、今後は「ITがビジネスの変革を牽引していく時代」になりますから、システム部門はそうした期待に応えなければなりません。

変革は、「まだ取り組んでいないこと」に挑戦していくわけですから、そのためにも積極的な情報収集が必要です。コミュニティに参加し、他社の新しいチャレンジを知るとともに、実際にチャレンジをしている人と触れ合い、「自分も頑張ろう!」という勇気をもらうこともコミュニティに参加する意義だと思います。

変革は痛みを伴うことが多いですが、「何もしないことが最大のリスク」という状況だからこそ、今はとても追い風だと思います。このチャンスに“より良い仕事”をするためにも、今こそコミュニティを活用し、情報を得て自分のスキルを磨き、会社のビジネスに貢献していく——。このサイクルを、システム部門の方々と一緒に回していきたいですね。

【取材:三原茂・辻村孝嗣・後藤祥子(AnityA) 執筆:鈴木恭子 撮影:永山昌克 企画・構成・編集:後藤祥子(AnityA)】


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