「誰もが“自らの意志で”働く場所を選べる世界」を創っていくのは情報システム部門――デジタルワークプレイスで社員の生産性向上を支えるNRI 村田氏に聞く、情報システム部門の新たなミッション

 2020.06.03  BJCC

いつ、どんなことが起こっても、社員の働きやすさを損なうことなく、これまでと同じように事業を継続できる環境を作っていく——。野村総合研究所で、時間や場所にとらわれずに働ける「デジタルワークプレイス」の構築に奔走するのが、同社のDX生産革新本部 デジタルワークプレイス事業三部で部長を務める村田龍俊氏です。

村田さんが、このような信念を持つようになった背景には、急速な技術の進化に伴う働き方の変化がありました。IT系のプロジェクトに関わっていた時代に村田さんが実感したのは、これまで主流だった重厚長大なウオーターフォール型プロジェクトが、プロジェクトを細分化し短期間でPDCAを回しながら進めるアジャイル型プロジェクトに変わり始めたことでした。

スピード感が求められるアジャイル型プロジェクトでは、必要な時にメンバーがさっと集まってディスカッションを行い、素早く課題を解決していく必要があることから、迅速な意思疎通を可能にするコミュニケーションツールやコワーキングスペース、Web会議システム、必要な人に必要な情報をセキュアに共有できるクラウドストレージ、さらにファイルやドキュメントを効率良く管理できるドキュメント管理が欠かせません。「既存のツールに働き方を合わせるのではなく、それぞれの業務に最適化されたツールを提供し、働く人の生産性を向上させるデジタルワークプレイスの構築は、これからの企業に不可欠なものになる」というのが村田さんの考えです。

「よりよいデジタルワークプレイスを作っていくためには、情報システム部門による支援が不可欠」と話す村田さんに、これからの情報システム部門はどのような考えのもと、どんなアプローチでデジタルワークプレイスの構築に臨むべきなのかをお聞きしました。

「誰もが“自らの意志で”働く場所を選べる世界」を創っていくのは情報システム部門――デジタルワークプレイスで社員の生産性向上を支えるNRI 村田氏に聞く、情報システム部門の新たなミッション

【村田龍俊氏プロフィール】野村総合研究所(NRI)DX生産革新本部 デジタルワークプレイス事業三部の部長を務める。1998年、NRI入社。IT基盤インテグレーション事業本部で証券基盤サービスの構築や、デジタルワークプレイス事業の前身となるIPコミュニケーション事業部およびスマートコミュニケーション事業部でインフラ基盤の構築を担当。NRI入社以前は製造業系企業で製造現場の生産性向上に取り組んだ。

「働き方改革」が、デジタルワークプレイスにもたらすインパクトとは

――:村田さんは、コロナ禍以前から社内外でデジタルワークプレイスの構築を支援しています。何がこの取り組みを加速させたのでしょうか。

村田龍俊: やはり東京五輪の開催が決まったことですね。2020年の夏は、都心のオフィスに通勤できない(予定でした)ので、何らかの対策を講じる必要がありました。そのため、デジタルワークプレイスの構築は、BCP(ビジネス継続性)対策的な意味合いが強かったですね。当社では、社員がリモートワークを体感し、そのメリットを理解したことで、「災害や通勤が困難になった時には家で作業する」ことが当たり前になりました。新型コロナによる緊急事態宣言が発令された今、こうした働き方がより一層、浸透してきています。

――:昨今では「生産性向上と効率化を考えると、全社員が必ずしも一堂に会して働く必要はない」という声も高まっています。これは2018年に可決・成立した「働き方改革関連法案」の影響なのでしょうか。政府が旗振りをしている「働き方改革」は、デジタルワークプレイスにどのようなインパクトをもたらしていますか。

村田龍俊:「働き方改革」の概念は、時間とともに変化していると思います。政府が2017年3月に「働き方改革」実行計画を発表した当初、その目的は社会課題の解決――少子高齢化による労働不足解消、出産・育児・介護などで限定的な働き方をする従業員に対する労働環境整備など――のための「オフィス変革」でした。

しかし、東京五輪の開催が決まった頃から言葉の意味が変化し、「働き方改革=リモートワーク環境の構築」になりました。つまり、キーワードは同じでも、その目的や求められる施策は、その時々で変化するのです。

コロナ禍で働き方を変えることを余儀なくされている今、「働き方改革」が意味するのは、デジタルワークプレイスの構築でしょう。一カ所集約型の古典的な物理オフィスではなく、デジタル化した空間を活用し、さまざまな労働環境に合わせて働くような環境の実現は、コロナ禍の影響で周知・導入が進んでいると考えています。

ウオーターフォール型からアジャイル型へ 開発手法の変化が働き方を変えた

――:デジタルワークプレイスの普及によって、これまでの枠にとらわれない働き方が可能になりました。また、プロジェクトも、スピードと効率性を重視したアジャイル型開発手法が増加しています。こうした潮流は、情報システム部門の役割に変化を及ぼしましたか。

ウオーターフォール型からアジャイル型へ 開発手法の変化が働き方を変えた

村田龍俊: プロジェクトのあり方はこれまでとは大きく変化していますね。プロジェクトの進め方がウオーターフォール型からアジャイル型に変わるとともに、これまで1~2年のスパンだったプロジェクト期間は数カ月単位になり、顧客に近いところで作業をする機会が多くなりました。このほうが顧客とのコミュニケーションを素早くスムーズに行え、PDCAを早く回せるからです。

また、技術の進化が加速していることも、働き方に変化を及ぼしています。IT業界では最新の技術がすぐに陳腐化します。以前は特定の技術ノウハウを持っていれば仕事になりましたが、最近は顧客のニーズも多様化しているため、固定的な知識だけではすまないことがあります。

さらに、顧客の要望に合わせて、われわれが協業するパートナーの“幅”も広がっています。短期間のプロジェクトを多様なパートナーとともに展開するには、迅速な意思決定と実行力が不可欠です。そして最も大切なのが、さまざまなノウハウを持つ人とコミュニケーションし、連携することです。そうした意味においては、「社員の働き方の変化が情報システム部門の役割に影響を及ぼしている」と言えるでしょう。情報システム部門は、社員がそのパートナーや顧客とより働きやすくなるような環境を用意する必要があるからです。

――:デジタルワークプレイスの構築では、具体的にどのような支援をしているのですか。

村田龍俊: デジタルワークプレイスでは「いつでも(Anytime)」「どこでも(Anywhere)」「誰とでも(Anyone)」「どんなデバイスでも(Any Device)」「どんなアプリケーションでも(Any Application)」必要な情報にアクセスできる環境が求められます。当然、セキュリティ上の懸念があってはなりません。

こうした環境に対する要件は、顧客企業ごとに異なります。例えば「場所は固定でもよいが、誰でも使えるようにしてほしい」「特定の人しか利用しないが、どのデバイス(環境)からでもアクセスできるようにしてほしい」といった具合です。この場合、前者と後者では講じるセキュリティ対策が異なります。

すべての「Any」を満たそうとすると、バリエーションが多すぎて結論が出ません。要件が異なればセキュリティ対策も異なりますから、使う側も自社のデジタルワークプレイスでは「どのAnyが必要なのか」を見極める必要があります。これが正しくできれば、利用しやすいデジタルワークプレイスが構築できると思います。

デジタルワークプレイスを根付かせるための工夫とは

――:構築したデジタルワークプレイスを根付かせるために、どんな工夫をしていますか。

村田龍俊: われわれは「小さく始めて、便利さに共感する人を増やし、徐々に幅を広げていく」という戦略を執っており、デジタルワークプレイスの環境構築も、3年がかりで“仲間”を増やしています。実際に現場の社員にデジタルワークプレイスを体験してもらい、彼らがその利便性や効率性を実感すれば、自然と口コミで広がり、浸透していきます。「小さな成功体験を積み重ね、育てていく」イメージですね。これはNRIの社内だけではなく、外販する時にも同じようなアプローチをしています。

――:使う人に便利さを実感してもらうことは重要ですね。具体的にはどのようなアプローチで“仲間”を増やしていったのでしょうか。

村田龍俊: NRIで最初にテレワークを導入した時には「テレワークデイズ」を設定し、「1週間のうちに必ず何日かはテレワークする」というルールを策定しました。そして、各部署同士で「どのくらいテレワークを実践しているか」を競ってもらうことで、利用しやすい環境を作りました。

こうしたキャンペーンを2年間、継続することで、従業員の意識は大きく変わりましたから、「何らかの強制力を持って習慣づける」ことは重要なのだと思います。これによって多くのスタッフが「家で作業ができるのであれば、通勤や移動に時間を使うのはもったいない」と理解するようになりました。

――: 社員や顧客にデジタルワークプレイスを理解してもらううえで、最もハードルが高かったことは何でしょう。

村田龍俊: セキュリティの考え方を、これまでとは180度変えてもらうことですね。オンプレミスの場合、出入り口となる境界線を守る対策が一般的で、境界の内側(社内/イントラ)のネットワークは安全で自由でした。しかし、SaaSを前提としたデジタルワークプレイスは、内部ネットワークも信用できないことを前提とした「ゼロトラスト」の考えで対策を講じる必要があります。

SaaSを利用する際には、「外側=危険、内側=安全」という概念を払拭しなければなりません。デジタルワークプレイスは「外から内に情報を取りに入る」ことを前提としていますから、「オンプレミス環境はSaaSのひとつ」であり、外部からリクエストがあれば、データのやり取りが発生することを理解してもらうことが重要です。

――: 長年オンプレミス環境しか利用していなかったユーザーに、SaaSの利便性を理解してもらうことは難しいと思うのですが、どうやって説得しているのでしょう。

村田龍俊: 我々がいちばん困っているのは、「過去のやり方がすべて正しい」と疑わない人の存在です。サードパーティのSaaSを利用する際、「何か問題があったら責任をとれないから認めない」という人がいます。そうした人に対してSaaSの利用を強制しても、なかなかうまくいきません。

この場合は、「オンプレミス環境でしか利用できないものは絶対に守ります。しかし、それ以外は変えましょう」と説得します。ダブルスタンダードですが、「SaaSを利用する業務は限定的です。ある程度のリスクを許容できる業務は外に出しましょう。そのほうが効率的です」と伝え、推進するアプローチを執っています。

働く人たちに「生産性を高める環境」を用意するのが、情報システム部門の役割

――: デジタルワークプレイスによって、働き方はどのように変わりますか。

働く人たちに「生産性を高める環境」を用意するのが、情報システム部門の役割

村田龍俊: 社員が状況に応じて働く場所を選択でき、それを自分自身で判断できるようになることが大きな変化といえるでしょう。NRIの例でいうと、私が勤務するオフィスは横浜にあるのですが、以前は1週間に5~6回は都心のオフィスに通っていました。デジタルワークプレイスの導入で、これがほぼゼロになったのです。同様に多くの社員も、対面で行う必然性がない業務をする時や、台風などで通勤が困難な場合は自分の判断でテレワークをするようになりました。

――: 「自主的に判断する文化」が浸透するまでに必要なことはありますか。

村田龍俊: 1つは上長がテレワークを認め、利用しやすいように制度を設計することです。ここで大切なのは、利用のハードルを下げること。せっかく制度を整えたとしても、煩わしい制度があったら利用者は増えません。「テレワークをする場合は申請書が必要」という制度やルールをつくってしまうと、「テレワークは上長の承認が必要な特別なもの」になり、社員にとって利用のハードルが上がります。

単に制度を導入しただけでは、デジタルワークプレイスは浸透しません。会社側は「なぜ、このような制度を設けたか」を明確にし、従業員に理解してもらう必要があります。

――:企業の働き方を変えていく上で、情報システム部門はどのような存在であるべきだと考えますか。

村田龍俊: 現在、すべての業務はシステム上で流れています。情報システム部はそうした業務フローとプロセスを把握できる立場にいる。つまり、業務の進行を見極め、業務全体の効率化や最適化を図り、働く人たちの生産性向上を支えるのが、情報システム部門なのです。

五輪開催やコロナ禍からも分かるように、働き方は昨今、さまざまなきっかけやタイミングで変化します。だからこそ、これまでの働き方の「こうあるべき」という先入観にとらわれることなく、常に現場の声に耳を傾けて、アジャイルで自社の業務に合ったデジタルワークプレイスを構築し、浸透させていくことが情報システム部門の大きな役割だと思います。それが、「誰もが“自らの意志で”働く場所を選べる世界」の提供につながるはずです。

【執筆:鈴木恭子 構成・編集:後藤祥子(AnityA) 撮影:永山昌克】


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