「SaaS全盛時代の今こそ、復活のチャンス」—— 自社だけでなく、他社の情報システム部門のやる気にも火をつける「情シス再生請負人」、高橋秀治氏のチャレンジ

 2020.05.21  BJCC

「ITの仕組みが大きく変わり始めている今こそ、情報システム部門の信頼を取り戻そう」——。そう話すのが、セゾン情報システムズで情報システム部門のリーダーを務め、疲弊していた同部門を立て直した高橋秀治氏です。

かつては「企業のIT専門家」として花形だった情報システム部門。しかし、2000年代以降にITのビジネス利用が一気に広がり、コモディティ化が進むにつれて、事業部門から次々と寄せられる要望をただ粛々とこなすだけの「請負構造」が常態化するようになってしまっているのではないか、と高橋氏は考えています。

2008年のリーマンショックの余波でIT予算が一気に縮小されると、その傾向がより一層顕著になり、手軽に導入できるクラウドが普及し始めた昨今、これまでのような「請負構造」での仕事のままでは、情報システム部門の存在意義そのものが問われ、企業の中で弱体化し信頼を失っていってしまうと、高橋氏は危惧しています。

そんな中で、同氏は、「クラウド全盛時代の今こそが情報システム部門再生のチャンス」ととらえ、企業の情報システム部門の変革にチャレンジしています。では、どのような方法で変革を成し遂げることができるのか。また、情報システム部門が信頼を取り戻すためにリーダーは、どんなマインドを持って部下に接し、どんな取り組みで社内を巻き込んでいけばいいのでしょうか。

今では「情シスエバンジェリスト」として、社内だけではなく、社外でも広く仲間を募って日本の情報システム部門を再生させるための活動に取り組む同氏に、自信を失ってしまった組織に変化を起こすための具体的な施策と、それを実現するためのリーダーの心得について話をお聞きしました。

「SaaS全盛時代の今こそ、復活のチャンス」—— 自社だけでなく、他社の情報システム部門のやる気にも火をつける「情シス再生請負人」、高橋秀治氏のチャレンジ 01

【プロフィール】1996年、日立製作所に入社し、半導体部門でドッグイヤーの世界を経験。三社の半導体部門合併に伴う企業再生の組織横断的なプロジェクトに参画する。その後、V字回復の経営で知られるミスミに入社し、徹底的な変化とスピードに対応する働き方を経験。現職のセゾン情報システムズでは2015年度から参画、情シス部門長を経て「情シスReborn!稼ぐ情シスエバンジェリスト活動」を推進中。座右の銘は、日立製作所が掲げる「和・誠・開拓者精神」と、修行の理想的なプロセスを示した「守破離」

「IT再生家」として情報システム部門の復権に取り組む

——: 高橋さんはなぜ、「情報システム部門の復権」をミッションとするようになったのでしょう。これまでのキャリアを通じ、どのような経験が影響しているのでしょうか。

高橋秀治: 現在、所属しているセゾン情報システムズは勤務先として3社目になるのですが、どの会社でも情報システム部門で仕事をしてきており、各社で取り組んできたことそのものが影響していると思います。

1社目は日立製作所で、半導体部門の情報システム部メンバーとして3社合併(ルネサスエレクトロニクス)に伴う企業戦略の変更と、それに伴う情報システムの統合に奔走しました。この経験から「もっと戦略について強くならなければいけない」と考えるようになり、企業再生家として著名なカリスマ経営者率いるミスミグループ本社にて、企業戦略と実践について体感しました。

カリスマ経営者の視点に触れ、体感する内に「自分自身は『企業再生家』にはなれないかもしれないが、自分の好きな分野であるITの経験を生かした『IT再生家』なら、なれるかもしれない」という結論に至り、セゾン情報システムズの信頼を失った情報システム部門の再生にチャレンジしようと考えたのです。「請負構造的なIT組織を復活し、生き生きワクワク、価値ある存在に変革する」という、使命感がありました。

——: 具体的には、これまでどのような施策を行ってきたのでしょうか。

世の中を見ると、進化したデバイスやサービスを、当たり前のように普段の生活で活用する時代になっています。一方で、セゾン情報システムズの情報システム部門は、こうした技術進化や生活様式のトレンドに対応する余裕がないだけでなく、社内ユーザーの期待に寄り添うことが出来ないほど切迫し、IT専門家としての信頼を失っていたのです。そのため、まずは 信頼を回復することが喫緊の課題でした。

最初に取り組んだのは、顧客の声にきちんと耳を傾け、その期待に寄り添えるよう、メンバーのマインドや行動様式を意識的に変えていくことでした。情報システム部門を単なるコストセンターではなく、「顧客である社内ユーザーにITサービスを提供する事業体」と定義して、どうすれば寄り添うことができるのか、「こぼれたボールを拾えるやつが一番偉い」と明言したのです。

例えば、社内の人が情報システム部門に対して「こんなことをやりたいんだけど」と相談を持ち掛けてきても、かつては「それはできません」と即座にシャットアウトしてしまうこともしばしばでした。しかし、一見、無理に思えるような要望でも、いったん相手に寄り添って耳を傾け、相手の目線に立って解決策を模索してみることで、状況は大きく変わります。例えそれが結果的に解決策を提示できなかったとしても、「こちらの話を真摯に聞いてくれた」というだけで社内ユーザーの信頼に一歩近づくことができるのです。

多くの情報システムの人は、「自分たちは一生懸命やっているのに、何が悪いのか」と思っていながらも、実は薄々、信頼を失っていることにも気づいているのです。ポイントは他責ではなく、自分たちが消費者の一人として自分事として捉えることができるかなのです。例えば、「普段の生活の中で使っているデバイスやサービスを見た時に、社内のサービスが時代遅れになっていると感じることができるかどうか」。だから、メンバーには、誰が良い悪いではなく、また、 できていないことを責めるのではなく、「自分たちが楽しいと思ったものでなければ、いいものは提供できない。どうやったら、楽しくやれるか」を、常にメンバーと対話し、新しいことを試し始めることにしました。

それと同時に、情報システム部門を「メンバー同士が互いに信頼できるチーム」にするための取り組みが必要でした。その一つが、メンバー同士の原体験(没頭体験や、腹が立った体験、悲しかった体験、嬉しかった体験など)を共有する「原体験ワークショップ」でした。

「自分の痛みを他人と共有する」というのは、なかなか難しいことなのですが、痛みを傾聴してもらった相手とは心の距離が縮まって、不思議となんでも話せるようになるのです。このような「心理的安全性」を感じられる環境をつくるため、仕事以外のコミュニティー会を開催することで、「同じ釜の飯を食った仲間」を目指したのです。「人は異なる価値観を持っているのが当たり前、だからこそ、異なる価値観を受け容れる環境づくり」が肝となりました。

——: そうやって情報システム部メンバーのマインドや行動を変えていくことで、徐々に他部門からの信頼を回復していったのですね。

高橋秀治: そうですね。しかし、ただ単に社内ユーザーから寄せられるすべての相談に親身に対応していたら、いくら人手や時間があっても足りません。幸いなことに、今の時代は昔と違って、ITで業務課題を解決するための手軽で便利なツールが、SaaSアプリケーションとして安価に提供されています。これらの道具をうまく組み合わせて活用すれば、手間や時間をかけることなく素早く課題の解決策を提供できます。

信頼を失った状況から挽回するには、とにかく迅速に結果を出すことが大事です。そうした意味では、スモールスタートですぐ結果を出せるSaaSアプリケーションが充実している現在は、かつてと比べて情報システム部門の存在価値をアピールしやすい時代だと言えるでしょう。そして、SaaSを始めとする新しいシステムやデータは、繋ぐ技術の進歩によって、あらゆる異なるシステム・データと簡単に繋ぐことができる時代となりました。つまり、変化ある不確実性の世界を生き抜くための復活のヒントは、新しいテクノロジーを積極的に取り入れて、既存のテクノロジーと混ぜること(異なるものが、あたかも生命体のように繋がるエコシステム化)が重要であると、仮説と検証を繰り返すことで明らかになりました。

情報システム部門メンバー、一人ひとりの個性に合った「変化への道筋」を提示する

——: 情報システム部門自らが新たな施策を打ち出しても、それが社内の理解を得られないとなかなか前へ進めません。

高橋秀治: その通りです。そこで私たちは、自分たちの活動を社内で広く知ってもらうための広報活動を始めました。具体的には、情報システム部門が新たに取り組んできたことを紹介する社内セミナー・よろず相談会を月1回の頻度で開催したのです。

こうして自分たちの取り組みを社内に発信し続けたところ、意外なことに「そんなにいい取り組みを行っていたのなら、もっと早く教えてほしかった」という声が多く寄せられたのです。

それまで情報システム部と社内ユーザーは、実はお互いよく見えていないこと、価値観の違いからすれ違い、対立することもありましたが、「異なる価値観を混ぜる」価値観の見える化によって、新たな価値を生み出すきっかけになっていったのです。

——: 高橋さんは社内のみならず、社外でも積極的に情報を発信されていますね。

高橋秀治: メディアの記事などを通じて私たちの取り組みを紹介したところ、驚くほどの反響が社外からあって、それ以降、さまざまなイベントに招かれて講演するようになりました。そうした社外での活動内容が社内に逆輸入された結果、社内のより多くの人に私たちの活動を知ってもらえるようになったのです。

また社外のコミュニティー活動にも以前から積極的に参加していて、現在は企業IT力向上研究会(ITEG)に参加し、研究テーマについて他社の方々と意見交換やディスカッションを行っています。プライベートでもよく、他社のIT部門の方々との懇親会を通して、会社の垣根を超えた交流の輪を広げ、情シス復活の相談をうけることも多くなりました。

——: 情報システム部門で働く人は、得てして社外との交流が少ないと言われます。どうやって社外交流を促しているのですか。

高橋秀治: 「外に出ろ!」と、ただ口で言うだけでは何の効果もないですから、まずは社外コミュニティの価値や面白さを体感してもらうために、情報システム部門のメンバーを指名して1年間コミュニティに参加してもらうようにしています。

その代わり、面倒なレポート提出などは一切不要ですし、それによって本業が疎かになって評価が下がる心配もしなくて済むよう、あらかじめ不安要素をすべて取り除いた上で背中を押してあげます。そうすることで、これまで「自分は変われない」と思っていた人が、外の世界や情報に触れて短期間のうちにみるみる変わっていくんですね。

その一方で、自身の価値観が強固でどうしても変われない人も一定数いますが、そうした人を無理やり変える必要はないと思っています。大事なのは、トップダウンで一律、同じやり方を全員に押し付けることではなく、メンバー一人ひとりの特性をきちんと理解した上で、それぞれに合った環境や道筋を示してあげることです。マネジメントの仕事はあくまでも、「人それぞれの力を最大化するための環境を整えてあげること」だと思っています。

——: こうした取り組みを通じて、情報システムのメンバーにどのような変化が起こりましたか?

高橋秀治: 最も大きな変化は、社内のユーザーと直接向き合うようになったことで、自分たちが行った仕事に対して直接「ありがとう」という言葉をもらえるようになったことですね。これまでは、ユーザーから感謝の言葉を直接もらうような機会は多くなく、何か言われるとしたら、問題が起きたときの文句ぐらいでした。でも、まずはこちらが彼らの声にきちんと耳を傾けて、相手の立場に立って誠実に対応すれば、感謝されることはあっても文句を言われることはそうそうないことに、皆が気付いてくれました。

情報システム部門にとっての顧客である社員の人たちの、そうした反応を前にして、多くのメンバーは「報われるんだ」ということを体感してくれたのではないでしょうか。逆に言えば、互いに直接、顔を合わせることがないメールや電話での対応に終始していたら、こうした気付きは得られなかったかもしれません。そういう意味では、直接顔を合わせるコミュニケーションの大切さもあらためて実感することになりました。

ビジネスにおけるITの価値が高まれば高まるほど情報システム部門の存在意義も高まる

——: 企業の情報システムの中には、変わりたいと願いつつも、実際にはなかなか変わるためのきっかけをつかめない人も少なくない。そうした方々が「初めの一歩」を踏み出すために、今日からできることは一体、何でしょうか。

「SaaS全盛時代の今こそ、復活のチャンス」—— 自社だけでなく、他社の情報システム部門のやる気にも火をつける「情シス再生請負人」、高橋秀治氏のチャレンジ 02

高橋秀治: どんな小さなことでもいいので、普段やっていない「ちょっとした非日常」にチャレンジしてみるのはどうでしょう。

何でもいいので、職場でわざわざ口に出して言うことがない「感謝の言葉」を口にしたり、仕事には直接関係なくてもちょっと気になった技術トピックについて調べてみたり、普段とは違う行動を敢えてしてみるだけでも世界が違って見えて、意外と意識が変わってくるものです。

もしそれでもなかなか変われなかったら、思い切って外部のコミュニティに飛び込んでみるのもいいと思います。コミュニティに参加して、普段、付き合いのない人たちと話してみると、それまで気付かなかった「自分の中に隠れていた答え」が見付かることもあります。ぜひ、臆することなく、社外のコミュニティに参加してみてほしいですね。

——: これからのDX時代に、情報システム部門は企業にとってどのような存在であるべきだとお考えですか?

高橋秀治: かつてITは「ビジネスのための道具」と言われてきましたが、現在、企業にとってITは単なる道具の範疇を超えて、新たなビジネスアイデアをもたらし、ビジネスモデルそのものを生み出す源泉として、かつてないほど価値が高まっています。

ただし裏を返せば、ITはビジネスに及ぼす影響力が高まった分、使い方を誤ると手痛いしっぺ返しを食らいます。従ってITのプロフェッショナル集団たる情報システム部門の存在意義も、これまでにないほど高まっているといえます。

だからこそ、これからの情報システムには、現場の声を聞き、相手の困りごとを自分ごととしてとらえることができる感性と、即効性のあるクラウドをフル活用してトライアンドエラーを繰り返しながら最適解を導き出すための知識が不可欠です。

かつてないくらい、情報システム部門が力を発揮できるチャンスの時に、自信をなくしている場合ではありません。私がIT再生家として支援している企業の方々の中にも、小さな一歩から新しいことを始めて、それが大きなチャレンジにつながり始めているケースが増えています。この大きなチャンスをものにするためにも、情報システム部のみなさまにはぜひ、明日から新たな一歩を踏み出してほしいと思うのです。

【執筆:吉村哲樹・後藤祥子(AnityA)構成・編集:後藤祥子(AnityA)】


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