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Box Japan Cloud Connections 第6回Meetup 開催レポート:ペーパーレスが「業務効率化」のトリガーに——事例に学ぶ、ペーパーレスのその先の改革への道

 2020.05.07  2023.01.30

これからの新しい働き方、そしてその働き方を支える「デジタルワークプレイス」を中心テーマに新しい企業システムのあり方を考えるコミュニティ「Box Japan Cloud Connections」(以下、BJCC)が4月17日、第6回目のMeetupを「ペーパーレスの先にあるもの」をテーマにコロナ渦の影響はあったものの、デジタルワークプレイスらしくオンラインで開催しました。

今回のテーマについてBJCCコミュニティリーダーの原田修平氏は、世間で「『紙をデジタル化すると仕事が効率化され、働く場所も固定されない幸せな環境が訪れる!』といわれているけれど、『本当に?』『ペーパーレスの本当の目的って何なんだろう?』といったところを深掘りしていければ」とオープニングを話し、セミナーがスタートしました。

月294時間の作業時間削減に加え、ペーパーレス化が業務改革のスタート地点に

トップバッターはJFEテクノリサーチ株式会社 知的財産事業部特許出願部技術部グループ主査副課長弁理士の吉田真衣氏。「ペーパーレスのすゝめ? 紙のトンネルを抜けたらそこからミライがみえてきた?」と題する講演を行いました。

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JFEテクノリサーチ株式会社 知的財産事業部特許出願部技術部グループ主査副課長弁理士の吉田真衣氏

同社はJFEスチール株式会社の100%子会社で、同氏のグループでは親会社の特許取得の依頼を受けて、特許庁とのやりとりを代行するのが主な業務。特許申請は日本だけではなく世界各国で行うため、取引する海外の特許事務所の数は70カ国80事務所に上ります。ペーパーレス以前は、FAXが400枚、電子メールの添付書類(紙での作業が前提なので、添付書類も印刷して処理する必要があったそうです)が400枚分、郵便が1,600通で、計2,400枚の紙が毎日届くという状況だったそうです。

これを1人300枚ずつ担当し、それぞれの紙がどのような内容なのかを把握することから作業が始まり、処理の優先順位を決める作業だけで毎朝1時間以上を費やしていました。また、特許出願に関しては、先行特許との重複を避けるために、細かな技術的な記述(権利範囲)の修正を積み重ねていく作業が不可欠です。申請書類の修正を繰り返すことになり、このやりとりを海外の事務所との間でFAXで行っていることから、膨大な英文の技術文書の修正をFAXを見ながら「一語一句間違わずに打ち直す」という作業を資料の送り手、受け手の双方が実行していたといいます。

こうした「修正箇所の反映」作業は、紙ではなく、元のファイルを修正したものを受け取ることができれば「完全に不要になる作業」ということもあり、「ペーパーレス化に踏み切れば無駄な作業を大幅に削減できる」のがあらかじめ明白だった——と吉田氏は振り返ります。とはいえ、同氏がペーパーレス化を提案しても、目の前の膨大な作業量に忙殺されていた上司からは「日々の大量の業務に加えてさらにペーパーレス化の取り組みを行う余力はない」という理由で承認が得られず、提案からペーパーレス化に実際に着手するまでに2年を要したそうです。

こうした経緯でスタートした同社のペーパーレス化の取り組みは、まずはFAXを廃して直接ファイルを取り扱えるBoxに移行することから着手し、約6カ月で業務フローの大変革を完了しました。その効果は、概算で毎月294時間の作業時間削減となって表われたそうです。

また、ペーパーレス化の副次的なメリットとしては、従来の紙ベースの仕事の進め方では紙文書とは別に管理せざるを得なかった各種の属性情報、具体的には、「どの案件の、どの国の、どんな種類の書類?」「いつまでに?」「誰の担当?」といった情報を、ファイルの命名ルールを体系化してそこに保持するように工夫したことで、文書内容と属性情報をセットにして取り扱うことができるようになったといいます。

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膨大な紙の資料をペーパーレス化することで、毎月294時間の作業時間削減に成功

当初は、負担が重かったFAXの取り扱いを「Boxに移行することでなくす」ことを目指していましたが、Boxの導入でペーパーレス化が実現した結果、今度は異なるシステム間に同じデータを手入力しているのをRPAやBox Relayの機能を使ってシステム間連携させて自動化したり、自動翻訳を実現したりするなど、さまざまな展望が拓けたと語りました。

当初の目的として位置づけられていたペーパーレス化は、より高度なDXや自動化を実現するための入り口だったということで、まさに今回のセミナーのテーマとして掲げられた「ペーパーレス化の先にあるもの」が具体的に示され、広義としてのペーパーレス化の一端とさらにその先のさらなる可能性を感じた講演でした。

ペーパーレス化が進めば、コミュニケーションコストは低くなるはず——公認会計士・税理士の矢野 裕紀氏

続いて、公認会計士・税理士の矢野裕紀氏が「“ペーパーレス”を通じて働き方、生き方を考える〜税理士事務所の実例〜」と題する講演を行いました。

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矢野会計事務所を運営する公認会計士・税理士の矢野裕紀氏

同氏は自身の会計事務所である矢野会計事務所に加え、クラウド会計ソフト「freee」の導入・運用サポートを行うアカウンティングサポート株式会社も運営するなど、税務・会計業務を軸にさまざまな切り口から中小企業を支援しています。

「税理士事務所のペーパーレス化が進めば、日本経済はもう少し活性化するのでは?」という“想いを、「半分本気です!」と語る同氏は、「税理士事務所の顧問先への関わり方は、企業・事業者の生産性に大きく影響するのでは?」と仮定。さらに日本では「中小企業が全企業数のうちの99.7%、従業員数で言えば全体の約70%を占めている」ことを考えれば、中小企業の生産性向上が実現することで、日本経済の発展に大きく寄与するはずだと説明します。

同氏は税理士事務所のペーパーレス化を、顧問先企業/事業者との関係を踏まえて「顧問先から情報をもらう側」と「顧問先に情報を提供する側」に分けて、実態を紹介しました。

顧問先からもらう情報については、「顧問先はある程度デジタル化しているのに、もらう資料はそもそも紙」ということが多いそうです。昨今では多くの企業が何らかの会計システムを利用しているはずですが、税理士事務所には紙の領収書の束が渡される——といったことが起こっているわけです。

逆に、既存の税理士事務所も、財務数値等を紙で渡すことが多いそうですが、これはシンプルに「昔からのやり方のまま、特に変える必要を感じていない」例も多いようです。ベースとなる資料を紙でやりとりし、それぞれが必要に応じて会計システムに手入力している——という状況は、先のJFEテクノリサーチ 吉田氏が語った状況とも共通するところです。

この状況に対して矢野氏は「税理士事務所のペーパーレス化が進めば、クライアント(顧客)とのコミュニケーションコストは低くなるはず」と指摘しますが、同時に「資料のデジタル化だけでは不十分」であり、「業務フロー全体で考える必要がある」と説明。最終的に「いかに早く、楽に、現状を数字にするか」という目標を達成するために、プロセスを最適化することが重要だと説きます。

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税務・会計の業務は電子帳簿保存法や税理士法といった法規制に則って処理することも考慮する必要があります。とはいえ、実際には法規制は緩和されており、ペーパーレス化/デジタル化が認められるようになっているにも関わらず、以前のやり方から脱却できず、紙の資料でないと認められないと思い込んでいる担当者もいるなど、簡単にはペーパーレス化に進んでいかない事情もあるようです。

同氏は「税理士事務所がペーパーレス化を支援できれば、作業時間が削減され、より付加価値の高いことに時間を使えるようになる。それが働きがい、生きがいの向上にもつながるはず!」との展望を語って講演を締めくくりました。

経費精算のペーパーレス化、最新トレンドは——コンカーの中條悠氏

最後に、株式会社コンカー ディストリビューション統括本部 戦略事業開発本部 事業開発部 マネージャーの中條悠氏が、電子帳簿保存法の改正経緯や領収書電子化の現状など、同社が目指す「経費精算のない世界」に向けた取り組みと現状を紹介しました。

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コンカー ディストリビューション統括本部 戦略事業開発本部 事業開発部 マネージャーの中條悠氏

同氏によれば、そもそも電子帳簿保存法は「国税関係書類などの法定保存文書を、電子データで保存することを容認する法律」であり、すなわち「ペーパーレス化」に直結する法整備となっています。とはいえ、1998年に同法が施行された段階ではコンピュータで作成された決算書データが対象となっており、その後「e文書法の施行」「平成27年年度税制法改正」を経て段階的に使いやすくはなってきたものの、まだまだ部分的な利用に留まっていたと指摘します。

こうした状況が転機を迎えたのは「平成28年度税制法改正」の施行で、このときに「スマートフォンで撮影した画像も法定保存が可能」になりました。スマートフォンのカメラで撮影した画像を領収書の原本の代わりにできるようになり、経費精算のペーパーレス化が加速することになったわけです。

出張・経費管理システムに特化し、クラウドサービスとして提供されるコンカーは、この規制緩和を実現するための働きかけを積極的に行った経緯もあって、同社のサービスでもいち早く対応しました。その結果、従来の紙の領収書を整理して経費精算を行うのに比べ、掛かる時間を約70%も削減できるという成果が得られたのです。

申請者の負担を軽減しただけではなく、申請を承認する立場にある上司にとっての利便性も高まりました。オフィス内を回ってくる書類の処理作業から解放され、モバイル端末の画面上で申請内容を確認し、承認するというデジタル化されたワークフローが実現することで、外出先から空き時間を利用して処理を完了させることすら可能になったのです。

同氏は、企業の経費精算処理の進化を紙ベースの「A2A:Analog to Analog」、画像を活用した「A2D:Analog to Digital」、デジタルデータ間の連携による「D2D:Digital to Digital」の3段階に分けたうえで、現状のA2DからD2Dを目指して行くと説明します。

具体的な取り組みとしては、キャッシュレス決済企業や法人カード企業、タクシー会社などさまざまなサービスとシステム連携を行う「オープンプラットフォーム戦略」を推進しており、たとえば法人カードで支払われた経費であれば、支払われた時点でそのデータが経費精算システムに取り込まれるなど、一度紙にすることをせず、処理の自動化が可能になります。

さらに、次の取り組みとしてはJR東日本とのSuicaサーバ連携も予定されており、交通費精算の全自動化も視野に入っていると中條氏。働く人のほぼ全てが負担に感じているであろう経費精算が自動化されるメリットは極めて分かりやすく、ペーパーレス化の効果を如実に示す典型例として印象的だったのではないでしょうか。

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ペーパーレス推進で重要なのは「なぜ、何のためにやるのか」を考えること

最後に、講演を終えた三人とホストの原田氏を交えた全員で、パネルディスカッションが行われました。講演の内容をさらに深く掘り下げるような以下の質疑応答の結果、「ペーパーレス化のその先にあるもの」というセミナーのテーマについて、より深い理解が得られる内容になりました。

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パネルディスカッションの様子。左上:吉田氏、右上:中條氏、左下:原田氏、右下:矢野氏

JFEテクノリサーチの吉田氏に寄せられたのは「上司の承認を得るのに2年掛かったそうですが、最終的に上司の承認を得る決め手となったのは何だったのでしょう」という質問に対し、吉田氏は自身の反省点として「ペーパーレス化が実現することでどれだけのメリットが生じるかを分かりやすく定量化して説明することができなかったため」と振り返り、さらに当時の部内の雰囲気について「プロセスを変えないことを大事にし、ミスを少なくすることに集中していた」と語っていました。

この考え方には一理あり、確かにプロセスの変更は一時的には慣れない仕事になるため、ミスの増大を招く可能性があるでしょう。そのバランスをどう判断するか——。イベントの参加者には、通常業務とは別に新たな負担が生じるような“変革/改革”を推進することの難しさがリアルに伝わったようでした。

「変革に対してどうしても積極的になれない」という傾向は、企業内の経理部門にも根強く見られるようです。矢野会計事務所の矢野氏はこの点について、「従来からの紙ベースの処理に何か問題がある、と疑問すら抱いたことがない人が少なからずいる」と指摘します。従来は紙で資料を残すことが法的に要請されていたこともあり、その頃の常識を疑わずにいる人が多数残っているわけです。その結果、新型コロナウィルスの影響下にある現在においても紙に縛られているためか、「リモートワークはできない」ということが多いのは経理部だという、笑えない実情も明かされました。

コンカーの中條氏には、同社の経費精算サービスのユーザーに「業種業態による偏りがあるのか」どうかという質問が寄せられましたが、同氏は「経費処理はどのような企業/組織にとっても“非コア業務”であり、その効率化が求められている状況には特に違いはない」といいつつ、「敢えてペーペーレス化が進んでいないところを挙げるとすれば、圧倒的に国・自治体などの行政関連」という実情が明かされました。

今回のセミナーでは、「ペーパーレス化を実際に達成した企業」「企業のペーパーレス化を支援する会計事務所」「ペーパーレス化のためのソリューションを提供するベンダー」という立場の異なる講演者が顔を揃えたことで、参加者にとっても極めて有用な知見が得られたのではないでしょうか。

特に、ペーパーレス化を理想論のみで語るのではなく、そのリアルな実態が業務の切り口から明かされたことで、実際にペーパーレス化に取り組む際にどういう点に配慮すべきか、単純に紙をデジタル化させることを目的にするのではなく、デジタル化した先にどのような活用ができるのか、その先の業務効率化やコスト改善といったペーパーレス化による業務メリットやその進め方についての実践的なノウハウが共有されたように思われます。ペーパーレス化に取り組むのであれば、ペーパーレス化に関わる人たちの業務全体を見ることが必要ですし、そう取り組むことでより多くの人がペーパーレス化のメリットを享受することができるのではないでしょうか。こうした知見を踏まえ、実効性の高い業務改善に取り組む企業がさらに増えていくことに期待したいと思います。

【執筆:渡邉利和 編集:後藤祥子(AnityA)】

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