変化の時代は、情シスが企業変革をリードする:クラウドネイティブCEO 齊藤愼仁氏に聞く、「企業を変える情シス」になるためのマインドセット

 2020.04.15  BJCC

変化の時代にITを使ってビジネス課題を解決し、企業を成長させていくためには、どんなマインドが必要なのか、どんなリーダーシップで組織を導いていけばいいのか——。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進まないと言われる日本で変革をリードする、気鋭のDX人材にインタビューします。

今回は、企業の変革に取り組む情報システム部門を支援する会社「クラウドネイティブ」のCEOを務める齊藤愼仁氏。勉強会やコミュニティでさまざまな企業規模、立場の情シスの方々の相談に乗ってきた同氏に、成長企業と衰退企業を分かつポイントと、企業の成長を支える情シス部門であり続けるためのマインドについてお聞きしました。

変化の時代は、情シスが企業変革をリードする:クラウドネイティブCEO 齊藤愼仁氏に聞く、「企業を変える情シス」になるためのマインドセット 01

株式会社クラウドネイティブ 代表取締役社長CloudNative Inc.創業者。過去にはx86系プロセッサを中心としたサーバーハードウェアの企画・設計に携わる。法人事業向けのフルカスタマイズサーバー製品を得意とし、ゲーム事業者やデータセンター事業者に大量納入するプロジェクトマネジメントなどを行った。その後、科学技術計算向けのHPCハードウェアのプリセールスを経験。GPUやコプロセッサを利用した高密度計算機の設計などにも参画。その後、アイレット株式会社cloudpack事業部にて社内インフラのセクションリーダーを担当。情報システム、ネットワーク、セキュリティの3チームを統括し、情報セキュリティ管理責任者、個人情報管理責任者、PCIDSS管理責任者を兼務した

企業の成長とともに歩いてきた情シス時代

——:ビジネス課題をITで解決するためには、企業の課題を俯瞰して捉えた上で、課題解決の方法を考えることが重要です。齊藤さんは、どのようなキャリアを通じてこのスキルを身に付けたのでしょうか。

齊藤愼仁:情報システム部門のキャリアは、アイレットというクラウド専業SIerでスタートしました。今でこそ500人超の企業になっていますが、僕が入社した当時は、まだ二十数人くらいの小規模な会社で、情報システム部門もなかったんです。クラウドの普及とともに急速に会社が成長する中、その時々で求められることに対応しながらシステムを整えていくことで仕事を覚えました。

未経験からのスタートだったので、本当に分からないことだらけでしたが、学ぶことは多かったですね。会社の成長フェーズに合わせて、「事業を行っていく上で投資すべき場所はどこか」「顧客に対して担保しなければいけないことは何か」「説明責任を果たさなければならないところはどこか」といったポイントを見極め、正しい投資をしていくための材料を、経営陣に提示していかなければならなかったわけですから。

経営視点で課題を捉え、会社の全体像からシステムのあり方を考えるようになったのは、規模が小さい時からCTOと相談しながら、社内システムを設計してきたことが影響しているのかもしれません。当初は僕の中で、それぞれの施策が経営とどうつながるのか、というのは見えていなかったのですが、いろいろな課題が出てきて、その解決方法を提案するにあたってCTOに相談すると、“それを経営視点でどう見るべきか”という問いがその場で返ってくるんです。

「会社にとってどんなメリット、デメリットがあるのか」「ほかの施策ではなく、この施策を選ぶ理由は」「組織や人への影響は」——といった話を何度も繰り返しているうちに、自然と“部分的な解決策の積み上げ”ではなく、“会社全体にとってどうなのか”を先に考え、施策に落とすようになりました。

変化の時代は、情シスが企業変革をリードする:クラウドネイティブCEO 齊藤愼仁氏に聞く、「企業を変える情シス」になるためのマインドセット 02

仕事をする上でいつも意識していたのは、ITがらみのことで困っている社内の人たちが相談しやすいように「何かあったら相談してよ」という空気をつくること。ただ、そうはいっても、座って待っていても何も起こらないので(笑)、いろいろな部門に足を運んで課題を拾いに行っていましたね。そして自社でやってみた課題解決の方法をブログで紹介していました。

そんな風に仕事をしているうちに、他社の情シスと知り合う機会が増え、いろいろと相談を受けるようになり、「自社の取り組みを他の会社でも役立てられるのではないか」と思い始めたんです。そんな背景から2017年、企業の変革に取り組む情シス部門を支援する会社「クラウドネイティブ」を立ち上げました。

変化の時代に「企業を成長させる」ためにやるべきこと

——:クラウドが進展し、これまでのやり方が通用しなくなっている今、成長企業と衰退企業の格差は広がる一方です。齋藤さんは、ブログやコミュニティ、勉強会などを通じてさまざまな企業の情報シスの方々から悩みを聞いていると思うのですが、成長企業と衰退企業を分かつものはなんだと思いますか。

齊藤愼仁:「ビジネス課題をITで解決すること」について「自分たちの頭で考えなくなっている状態」は、衰退につながるように感じますね。

例えば、導入するソリューションについても、「分からない」と言いながらも、いろいろと考えたり調べたりする人たちにとっては、今はいい時代になっている思うんです。昨今では、コミュニティやユーザー会で導入経験者のリアルな情報を得られるので、こうした生の情報を生かすことで変革を進めることができますから。

しかし、“考えることを諦めている人”が少なくないのも事実です。例えば、ITのことがよく分かっていない上層部から「マジック・クアドラント(市場で競合しているベンダー各社を相対的に位置付けて提示するガートナーのリサーチ法)の一番右上(リーダーのポジションにある製品)を導入せよ」と言われ、何の疑問も持たずにその通りに見積もりをとってSIerやベンダーに「提案してください」と丸投げするようなことをやってしまうのはよくないですね。

自社の規模がどれくらいで、顧客に対してどんな価値を提供していて、誰に対してどんな社会的責任を果たしていて——ということが分かっていないと、「マジック・クアドラントの右上の製品を使うことの意味」なんて分かるはずがない。そこできちんと戦えず、「言われた通りにやればいいや」と諦めているようでは、どこに行っても戦えないですよね。「自分たちのビジネス課題は何か」「その課題を解決するのは本当に、マジック・クアドラントの右上のソリューションなのか」を考えていないわけで、当然、課題解決に結びつく可能性も高くないため、導入が進むにつれて社内に歪みが生じてしまいます。

そうやって思考停止に陥った状態で仕事をしていると、本質が見えなくなって、提案や企画を反対された時に説明できなくなるのも問題です。

例えばこんな相談を受けたことがあるんです。ある会社の情報システム部門が経営陣に、新しいセキュリティシステムの提案をしたところ、営業から横槍が入った、と。「このシステムにかけるコストで営業スタッフを3人雇えば、これだけの売り上げがあげられるのに」——というわけです。よくある話ですよね。「今までなくても困らなかったんだから、もっと売り上げに影響するところにお金を使えばいいのに」という話です。

どうやって経営陣を説得したらいいか、と聞かれたので、こうアドバイスしたんです。

「これまで社員が一丸となって成長させてきた企業をあなたたちはどうしたいんですか?来年の今頃も同じ規模でいいんですか?」と。さらに頑張って顧客のニーズに応える商品を提供して、企業として成長したいはずですよね。

企業として成長して大企業と取引するようになれば、取引相手からセキュリティ基準を満たしているかどうかをチェックするシートが来るので、いいかげんな対策をしていたら大企業との取引ができないこともある。そうなると、企業としての信頼を失いますよね。

「今回のセキュリティに対する投資は取引先に対して説明責任を果たすのに適したシステムであり、それがたったこれだけの投資で手に入る、という話なんだ」と説明すればいいだけの話なんです。実際、そう話したら、その日のうちにゴーサインがでたそうです。

営業の横槍は、目先の利益を考えた話で、中長期的な視点で見た時に企業の成長にとって必要なものが何か、ということまでを見ていない。こういうことが起こったときに、全体を俯瞰して本質を見ることができれば、説得のための言葉は出てくるはずなんです。

会社の中での「自分の役割」を考える

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——:これからの情報システム部門に必要なマインドはどのようなものなのでしょうか。

齊藤愼仁:自分が手掛けている仕事の「意味」や「目的」を意識することが大事だと思いますね。その大元として考えるべきは、「自分たちの会社が“何によって”稼いでいるのか」ということ。それを意識するようになれば、自社のビジネスを成長させるために、情報システム部門として“誰に、どんな価値を提供できるのか”を考えられますよね。

情報システム部門は仕事としてカバーする範囲が広く、とても忙しいですから、「とにかく、目の前の課題をなんとかしなければ」という風に考えてしまいがちです。でも、そうすると視野が狭くなって、いつしか「自分の都合でどうしたいか」と考えるようになってしまい、本質的な改革から遠ざかってしまうことがあります。これは本当に危険なことなのですが、忙しいとついそうなってしまう。

だから、忙しい時ほど、そして迷ったり、もやもやしたときには、意図して一歩引いて課題を俯瞰して、「本当にその方法でいいんだっけ」「相手にとって本当にその方法がベストなんだっけ」と問い直してみるといい。IT部門にいると、つい「ITで解決しなきゃ」と思ってしまいがちですが、実はITを使うことが最適解じゃない場合もあったりするんです。

会社の仕事というのは、自分が持つ顧客に対して「いかにより良いサービスを提供できるか」で、価値がはかられます。情シスにとってのお客さんは「会社の人たち」であり、その人たちを働きやすくすること、効率化してもらえることが、企業として提供しているサービスの質を上げることにつながり、それが利益を生んでいくわけです。

だからこそ、自分の会社は今、何を目指しているのか、どこがうまくいっていて、どこがうまくいっていないのか、そのために情報システム部門のスタッフとしてできることは何なのか——といった「全体感」を意識することで、自分の役割がよりクリアに見えてくると思うのです。

このところ、勉強会や情シスコミュニティで、ユーザー企業の情シスの人たちと話す機会が多いのですが、会社全体のことを考えてさまざまな取り組みをしている人は増えている印象があります。横のつながりを持つようになって、他社の取り組みを聞いたり、自分とは異なる考え方に触れたり、インフルエンサーの話に影響されたりしていることが、情シスのマインドを変えているのかもしれません。

信念があれば情シスは“コミュ障”にならない

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——:本質的な改革を意識するようになると、今度は、今までのやり方を変えたくない「抵抗勢力」との戦いに悩むことになります。

齊藤愼仁:「会社を変えたい」と思っている人たちに必ず話すのが、その取り組みを「“本当に会社や顧客にとっていいと思って“やっている」と、信念を持って他の人を説得できるか——ということなんですね。

会社の仕組みを作る時には、多くの部門や人を巻き込むことになるわけですが、いざ、始めようと思った時に、抵抗勢力があまりにも大きくてなかなか進まない——ということも少なくない。

その時には、「会社が描く成長戦略をこうやって実現するために、このやり方を提案しているんだ」ということを、相手にとって腹落ちする形で説明し続けなければならない。つまり、エンジニアリングや仕組みの良し悪しだけでは、システムも働き方も変えられないんです。そこには当然、社内政治がからむので、コミュニケーションも欠かせません。

でも、自分がやろうとしていることに信念があれば、何としてでも分かってもらおうと、あの手この手で説得するはずなんです。武闘派CIOとして知られるフジテックの友岡賢二さんほどの人でも、裏では地味に根回ししているとお聞きしています。

これは、情シスのリーダーだけではなく、身近な課題を改善している情シスの方たちも同じことがいえると思うんですね。よく、自分のことを「コミュ障です」という情シスの方がいますが、もし、自分が考えている取り組みについて、「目の前にいる人がよりよく、楽しく仕事ができるようになる」と本気で信じていたら、話すのが得意とか不得意とかいうことは関係なく、周りを巻き込みにいくと思うんですよ。

「こうすれば会社が良くなる」「よりよい働き方ができるようになる」という思いがあれば、それが共通言語になって、普段は話が合わない相手でも、コミュニケーションできるはずなんです。

「いろいろな改革案を会社に提示しても、ことごとく却下されて全然話が進まない」という人は、例えば、コミュニティや勉強会で自分の取り組みを話して意見を聞いてみると、自分の取り組みに足りないところが見えてくるかもしれません。

自分の力で「この企業を元気にしたい」と思えるか~熱量が会社を動かす~

——:それでも抵抗勢力と戦うのは難しい面があります。変化を起こすのが難しい場合にはどうすればいいのでしょうか。

齊藤愼仁:変化を起こそうとするときに難しいのは、「どう考えても非効率なやり方」が、「仕事をしている感」につながってしまうことなんですね。そういう環境にどっぷりつかっていると、課題を課題として認識できなくなってしまうんです。ただ、そういう環境下にあっても、「こうしたら効率が上がる」というアイデアがあるなら、言ったほうがいい。その熱量が会社を動かすと思います。

とにかく「何もしない」というのはよくないですね。経営陣や上司と話をするとか、身近なところからデータを集めて数字を出してみるとか、自分ができるところで動いてみる。それを諦めて何もしない人は、ほかのどの会社に行っても通用しないと思います。

そもそも人は、さまざまな変化を受け入れて生きています。古くは切符がSuicaになったり、コミュニケーションの手段が通話からメール、そしてチャットになったりしても、それに順応してきた。最近では現金の文化がキャッシュレスに変わろうとしています。

こうした生活の変化を受け入れられるのだから、人は会社の変化も受け入れられると思うんです。そのために僕たちIT部門の人間ができるのは、変化に対する不安を感じさせないように現場の声を聞き、彼らが実感できるくらい仕事をやりやすくすること。そのためには、その場しのぎの対応をするのではなく全体を見て、自分の頭で考え尽くして業務をプロセスから見直すような取り組みを考え、それを実行し、その取り組みの意味を伝え続けることが大事なんだと思います。そうすることによって、変化が必要な時代に情シス企業を成長する基盤となり、企業を変えることすらできると信じています。

また、それを実践する上で大事なのは「コアの部分」でブレないことです。ベンダーや営業が何を言おうが、他社の事例がどうだろうが、それに惑わされてはいけないんです。

なぜなら、経営から仕事、従業員のことまで、自分の会社のことはそこに所属している自分が最も理解しているはずだからです。だからこそ、自社のビジネス課題を解決するのに最適なITをデザインし、投入できる——。これからの情報システム部門のリーダーは、この「コアの部分」を崩さないでほしいですね。

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