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どうやって伝統あるSI企業にSaaSの文化を根付かせたのかNTTデータの齋藤氏が挑むDXへの道

 2020.07.15  2023.01.17

伝統と実績がある企業のシステムに、クラウドの仕組みを取り入れることで、従業員にとって働きやすい環境を提供できるのではないか——。そんな思いから、社内のクラウド導入に積極的に取り組んできたのが、NTTデータのデジタルビジネスソリューション事業部で部長を務める齋藤洋氏です。

社外の顧客向けにシステムを開発するアプリケーションエンジニアの仕事を経て、社外から製品やサービスを調達して顧客に提供する仕事をするようになる中で、先進的なクラウドサービスの世界を知った齋藤氏は、「これからはクラウド、特にSaaSが働き方を変え、ビジネスを変えていく」と確信したそうです。こうした背景から同氏は、まだクラウドがセキュリティ面で世間から不安視されていた時代から、SaaSの利便性と可能性を伝え、社内に導入するための取り組みを進めてきました。

公共性が高く、強固なセキュリティが求められる案件が多いNTTデータで、齋藤氏はどうやってSaaSを根付かせていったのか——。その取り組みの全容をお聞きしました。

どうやって伝統あるSI企業にSaaSの文化を根付かせたのかNTTデータの齋藤氏が挑むDXへの道01

【齋藤洋氏プロフィール】株式会社NTTデータ ビジネスソリューション事業本部 デジタルビジネスソリューション事業部の部長を務める。1992年NTTデータ通信(当時)入社。法人分野のコンサル、アプリケーション開発を担当後、企業ポータルビジネス、仮想化ビジネスの新規立ち上げを担当。ここ数年は、部内の働き方改革を推進しつつ、デジタルワークスペースサービスの開発責任者として活動中

NTTデータの「伝統」にSaaSの「革新」を

——:斎藤さんが「SaaSの導入を通じて働き方を変えること」に積極的なのは、これまでのキャリアが影響しているとお聞きしました。どのようなキャリアを歩んできたのでしょうか。

齋藤洋:新卒でNTTデータに入社した後、まず初めに社外のお客さま向けのシステムを開発するアプリケーションエンジニアの仕事に携わりました。その後、20年ほど前に、今度は社外から製品やサービスを調達してお客さまに提供する仕事へと転じました。

当時はちょうど、さまざまなSaaSサービスが出始めた時期で、私も外資系のSaaSベンダーや、その製品を導入している企業の方々とお付き合いするようになったのです。彼らを通じてSaaSを取り入れた働き方を見たり、実際に試したりするようになる中で、とにかく「ムダのない働き方」ができるようになるところに驚き、これはぜひ、社内外に広げていきたいと強く思い、それ以降、普及に努めてきました。

——:現在はどのような案件を担当していますか。

齋藤洋:現在は、「BizXaaS Office(BXO)」というNTTデータ独自のソリューションの開発責任者を務めています。BXOは、場所を問わず好きなデバイスから社内システムやクラウドサービスを利用できる、いわゆる「デジタルワークスペース」を提供するソリューションです。

テレワークに適したDaaS(Desktop as a Service)やゼロトラストセキュリティのプラットフォーム上で、BoxやSlack、Zoomといった最新のデジタルコミュニケーションやコラボレーションツールを活用した利便性の高いワークスペースを実現します。この仕組みは基本的には社外のお客様向けに提供しているものですが、NTTデータのOA環境や開発環境のベースとして全社規模でDaaS導入済であり、現在ではNTTデータ社内のコミュニケーション基盤としても導入が進んでいます。

——:NTTグループでは情報システムのセキュリティやガバナンス面で厳格なルールやポリシーが設けられていると思いますが、そうした環境にBXOのような最新のSaaSを多く活用した斬新なアーキテクチャを導入することには難しさもあったのではないでしょうか。

齋藤洋:確かに、NTTグループは公共性の高い事業を営んでいますし、NTTデータのお客さまにも金融機関や公共機関などが多いですから、情報セキュリティや情報ガバナンスへの懸念には気を遣う必要がありました。そのためだけではありませんが、セキュリティ対策には以前から万全を期しています。こうした文化自体は非常に良いことですから、これからも維持していく必要があります。

一方で、これからの時代はビジネスのスピード感が増し、働き方改革の要請も高まっていますから、従来のシステムアーキテクチャやセキュリティモデルにとらわれていたら、お客さまのニーズに応えられなくなってしまいます。従って、NTTデータがこれまで守ってきた文化の良い面は維持しつつも、同時に新たな技術や考え方も取り入れていく姿勢が重要だと感じています。

新たなセキュリティモデルを試す「トライアル環境」とは

——:社内システムに新たな仕組みを導入したいと考えるようになったきっかけを教えてください。

齋藤洋:当社にとって、強固なセキュリティ体制を維持することはとても大事なことですが、そのために社員が無駄な作業を強いられて、なかなか本業に集中できずにいる様子を見るにつけ、「何とかせねば」とずっと思っていました。

例えば、社外の取引先とファイルをやりとりする際、最近では当たり前のようにオンラインストレージやBoxのリンクが送られてくるのですが、当社のネットワークからBoxへのアクセスはブロックされているため、やむを得ずメールのファイル添付で送ってもらうよう頼まざるを得ません。システムの障害調査のためのログデータをやりとりする際などには、巨大なログデータをわざわざ100個以上のファイルに分割してメール添付するような作業を延々と繰り返しています。こうした事態は、効率の面でもセキュリティの面を考えても何とか改善しなければなりません。

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——:そうした課題を解決するために、どんな取り組みを始めたのでしょう。

齋藤洋:新たなセキュリティモデルを社内で試行する「トライアル環境」を立ち上げました。従来のセキュリティモデルは、社内ネットワークとインターネットとの間の境界線上で脅威を防御する「境界型」が主流でしたが、テレワークではユーザーが社外からクラウドサービスにアクセスする必要が出てきます。そのために、いちいち社外からいったん社内ネットワークにVPN接続して、そこからあらためてインターネットに出ていくのはどう考えても非効率です。

こうした背景から昨今では、PCやスマートフォンなどのエンドポイントデバイス上で万全のセキュリティ対策を施した上で、直接インターネットにアクセスする「ゼロトラスト」というセキュリティモデルが求められるようになってきています。

私たちが提供するBXOでも、「BXO Managed Workspace Security」というサービスでゼロトラスト型のセキュリティ基盤を提供していますが、NTTデータ社内でもセキュリティ部門を中心に一部で「トライアル環境」を設けて、限定した範囲でゼロトラスト・セキュリティモデルを実践しています。

——:保守的なシステム運用を長年続けてきた中で、そうした新たなチャレンジをするのはかなり大変だったのではないでしょうか。

齋藤洋:私にとって幸運だったのは、本部長をはじめとする上長に快く理解してもらえたことでした。トライアル環境の提案もすんなり受け入れてもらえましたし、若手を中心に社内でかなりの数の賛同者を得ることもできました。

特に若手社員にとっては、それまで大学などで当たり前に使っていたSlackやBoxが、会社に入った途端に使えなくなって、周囲にその理由を尋ねても、明確な答えはない。そもそもSlackやBoxのことをよくわかっていない状況は、かなりのストレスになるはずです。そうした人たちを徐々に巻き込みながら、取り組みの範囲を広げていきました。

大事なのは、普段から「組織をまたいだ人的なつながり」を意識すること

——:従来のセキュリティモデルを否定せず、新たな取り組みとの両立を図られたのですよね?

齋藤洋:その通りです。先ほどもお話しした通り、新たなことにチャレンジするといっても、それまで続けてきたセキュリティ対策の価値が全て低下するわけではありません。社内で新たなチャレンジに乗り出す際には、従来の取り組みを決して否定せずに、幅広い人たちの理解を得られるようにすることが大事です。

トライアル環境の構築に着手する際も、さまざまな部署にいる同期にあらかじめ声を掛けて、根回しをしっかり行いました。ある程度キャリアが長くなると、どの人にあらかじめ話を通しておけば物事がスムーズに運ぶのか、大体、見当が付くようになります。このあたりがベテランと若手の最大の違いなのだと思います。

——:普段から、組織を超えた横のつながりを築いておくのが重要なのですね。

齋藤洋:そうですね。NTTデータのようなまだまだ終身雇用が前提のような大手企業だと、社内のさまざまな部署に同期入社の仲間がいますから、そうした人たちとあらかじめ話を通しておくだけでも随分違ってきます。

また、私のような管理職だけでなく、現場のクラウドネイティブな若手もそうやって横の連携を普段から意識していると、必ず「実はうちの部署でもBoxやSlackが使いたかったんだ」という声が届くようになります。そうやってさまざまな年代や立場のメンバーが、社内の横のつながりを意識して動いていれば、自ずと社内の賛同者が増えてきます。

——:そうやってトライアル環境の活動を徐々に社内で広げていった結果、どんな成果が見られましたか?

齋藤洋:最も分かりやすい例が、新型コロナウイルス対策のためのテレワーク用環境の整備ですね。もともとBXOやトライアル環境は、働き方改革のための取り組みという位置付けで、NTTデータ社内でも以前からこのトライアル環境をベースに、東京五輪期間中の在宅勤務を意識したテレワーク対策用の環境を整備してきました。

そんな中、新型コロナウイルスの感染が発生して急遽全社員が在宅勤務を実施せざるを得なくなったのですが、それまで整備してきたテレワーク基盤をベースに拡張することで、何とか迅速に対応することができました。

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コロナの影響により、取材はリモート環境で行われた

使ってみたいサービスを試せる場を用意し、現場発のイノベーションを促進

——:NTTデータの社内でさまざまな変革に取り組んできた経験から、企業の情報システム部門が今後、変革を遂げていくためにリーダーはどのようなマインドを持つべきだとお考えですか?

齋藤洋:私自身はこれまで、情報システム部門に所属したことはないのですが、一般的に従来の情報システム部門は、どうしてもコスト含め社内のさまざまな事情や政治に縛られるため、単独で大胆な変革を起こすのは難しいように思います。

そこでお勧めなのが、シャドーITと頭ごなしに否定するのではなく、「何かしらユーザーにメリットがあるから使うのだ」とむしろ、トライアルのような位置づけで、ある程度許容してコントロールしながら、業務部門の現場で自発的に利用してもらうという手法です。社内で変革の意識を持っている他の部署の人たちと積極的につながって、そういう人たちが使ってみたい製品を試してもらうことで、現場発の変革を促進するのです。筋のいい取り組みは認め、基本的なセキュリティポリシーや運用ルールを守れば、特定の条件下で利用できるようにすることで、全社規模の変革への足掛かりにするということです。そうやって現場主導で便利なツールを試してもらって、ある程度結果が出た時点でその内容を評価して、もし全社規模に展開する価値がありそうだったら情報システム部門が引き継いで規模を拡大し、全社展開をしていけばいいわけです。こうしたやり方であれば、トライ&エラーのアジャイル的なやり方でスモールスタートができますし、予算も柔軟に確保できます。

全てのことを最初から情報システム部門主導のみで行おうとすると、一定の予算を確保して、長期的な計画を立てて、ゴールをきちんと定める必要が出てくるため、なかなかスピードを上げられません。クラウドサービスは素早く立ち上げてすぐ捨てられるのもメリットですから、時間をかければかけるほどそのメリットは薄れていってしまいます。第一、時間をかけすぎてしまうと、システムが出来上がった時点で既に時流にそぐわなくなっているかもしれません。そういうこともあって、動くところから動かして変えていくことがポイントではないかと感じています。

あとはとにかく、コミュニケーションを大事にすることですね。変わらない現状を頭から否定したところで、状況は何一つ変わりませんから、今までのやり方の良いところは受け入れつつ、どうやって新しいやり方を理解してもらうか、賛同してくれる仲間をどう増やしていくかを考え続けることが重要だと思います。

「身をもって実感した便利さ」は、強いメッセージになる

——:変えるのが難しい状況もある中で「新しい働き方の効果」を社内に伝え続けたモチベーションの源泉は何だったのでしょう?

齋藤洋:実は今でも、初めて外資系SaaSベンダーの便利な製品に触れた時の驚きが忘れられないのです。今まで当たり前だと思っていた「作業」が、新たな仕組みに変えることで不要になったり、自動化されたりしてムダがなくなり、自分が本来やるべき仕事に集中できるようになった時の感動は、今でもはっきり覚えています。

当時はちょうど、さまざまなSaaSが出始めた時期で、私も外資系SaaSベンダーの方々や、その製品を導入している企業の方々とお付き合いするようになりました。彼らを通じてSaaSを取り入れた働き方を見たり、実際に試したりするようになったわけですが、さまざまなサービスを使えば使うほど、どんどん生産性が上がっていくことを実感できたことから、「何が何でも、この新たな働き方の効果を社内の人たちに伝えなければ」と思うようになったのです。

普及にあたっては壁にぶつかることもありましたが、新しい働き方を身をもって知ってしまったら、もう後戻りできなくて(笑)、とにかく共感してくれる人を探してそれを伝え続ける毎日でした。そうするうちに、どんどん仲間が増えて、トライアル環境の構築にこぎつけられたのです。

NTTデータの働き方改革は、コロナ禍でさらに改革の機運が高まったことから、大きなムーブメントになりつつあります。これからは、このノウハウをエバンジェリストとして外の企業に発信していきたいと思うようになり、今、その準備を進めているところです。

一連の取り組みを経て、今、実感しているのは、働き方を変えるためにはツールや仕組みだけでなく、文化を変えなければならないということです。DXの時代には、どうしてもこれまでの常識通りのやり方が通用しなくなることも多く、そこは考え方を変えていかなければならない。そんな中で「身をもって実感した新しい働き方の効果」は、それを説得する際にとても大きな武器になります。これほど強いメッセージは他にないと思いますね。

【企画:辻村孝嗣(BJCC) 執筆:吉村哲樹 構成・編集:後藤祥子(AnityA)】


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