DX時代に欠かせない「自ら考え、行動するマインド」をLIXILに
浸透させたい——デジタル部門を率いる安井卓氏が仕掛ける
コミュニケーション改革

 2020.09.16  BJCC

「社会的価値が大きいLIXILという会社を、さらに成長させることで社会に貢献したい。そのためにもLIXILを企業家精神あふれる会社にしたい」——。そんなLIXILグループCEO、瀬戸欣哉氏の言葉に共感して同社に転職し、理事としてデジタル部門 デジタルテクノロジーセンターのセンター長兼情報セキュリティ責任者を務めるのが安井卓さんです。

企業家精神を養うためには、社員が「自ら考え、行動すること」が重要であり、そのためには「自分はなぜ、この会社にいるのか」「この会社のミッションは何なのか」「会社が発展していくために自分はどんな貢献ができるのか」を考えることが重要というのが安井さんの考え。LIXILの文化を安井さんはどのように変えていっているのでしょうか。変革のプロセスをお聞きしました。

DX時代に欠かせない「自ら考え、行動するマインド」をLIXILに浸透させたい——デジタル部門を率いる安井卓氏が仕掛けるコミュニケーション改革01

【安井卓氏プロフィール】2001年に VA Linux Systems Japan 株式会社入社。唯一のエンジニアとして、Slashdot Japan(現スラド)、SourceForge.JP(現OSDN)の2サービスを立ち上げ、2009年まで開発・運用・サポートを担った。2010年に楽天株式会社に転職。楽天市場をはじめとした楽天のサービスの全文検索プラットフォームの開発・運用を担当。2014年に株式会社MonotaROに転職。執行役IT部門長として、会社のIT全般を統括。2017年に株式会社LIXILに転職。デジタルサービスの充実化・改善や自社開発のためのプラットフォーム構築に従事している

ミッションは「中から変えられないところ」を変えること

── VA Linux Systems Japan、楽天、MonotaROと、さまざまなタイプの会社を見て来た安井さんの目に、当時のLIXILの社風はどのように映りましたか?

安井卓:上から降りてきた指示を真面目にきっちりこなす会社——という印象を受けました。私が入社するちょっと前までは、「服装はスーツでシャツは白」と決まっていたと聞いています。ちょっとしたミスが大きな事故や損害につながってしまう製造業ゆえ、決まったやり方を大事にしてきたのだと思います。

LIXILで仕事を始めて感じたのは、部署ごとにコミュニティが形成されていて、互いの交流や協力関係が少なかったことですね。隣の部署でどんな仕事をやっているのか互いに知らないし、極端な話、隣の席に座っている人が何をやっているのかすら知らない人もいる状況でした。そのため、業務システムも部門ごとに個別に構築してしまったり、似たような別の技術を使い、開発プロジェクトが重複して進められていることもありました。

もちろん、吸収合併を重ねて大きくなった会社なので仕方ないところはあるのですが、業務もシステムもサイロ化しており、「これは何とかしなければ」と思いました。

── このままではCEOの瀬戸氏が目指す「企業家精神あふれる会社」を実現するのは難しいと思ったのですね。

安井卓:そうですね。私は外から来た人間なので、「中から変えられないところを変えること」を期待されています。社内の状況を見て、「何が必要なのだろう」と考えた時、真っ先に「コミュニケーション」と思ったのです。

私の中で「企業家精神を持つ」というのは、自分が会社の社長になったつもりで、自ら「今、この状況下で何をしたらいいのか」を考え、実践して、失敗を繰り返しながらよりよいものを作っていくことであり、それを情熱を持って軽快なフットワークで行うことだと思っています。

ただ、この会社でそれを実践するには「情報が不足しすぎている」と感じたのです。上から与えられた情報しかなくて、「あなたはこの仕事をやりなさい、以上」——という環境では、企業家精神の発揮のしようがない。こうした背景からまずは、「情報の流通」を変えようと思ったのです。

サッカーから学んだ組織論・マネジメント論

── 「組織のサイロ化」を解消し、情報の流通を促すために、具体的にはどのような施策を行ったのですか。

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安井卓:最初に取り組んだのは、社内の情報流通を活性化させることでした。社員同士が情報を自由にやりとりできるコミュニケーション基盤を整備して、「誰がどんなことをしているのか」を互いに知ることができるようにしたのです。具体的には、Facebookの社内SNSプラットフォーム製品「Workplace」を導入して、社内共通の情報共有プラットフォームとして位置付けました。

その結果、ほかの部署で何をしているのかが互いに見えるようになり、自分が困ったとき、誰にアドバイスを求めればいいのかも分かるようになりました。これまでの社風が徐々に変わっていくとともに、社員が「自分で物事を判断するための材料」が容易に手に入るようになったことで、「自分で判断して行動する」という文化が徐々に根付き始めました。

「企業家精神を持つ」ということをメンバーに意識してもらうために、私がよく言っているのが、「自分の役職の2つ上の役職に立ったつもりで物事を見よう」ということです。自分の周りのことしか見ていないと、どうしても部分最適の見方に凝り固まってしまいますから、より高い視座に立って物事を見て判断する習慣を付けるよう奨励しています。

── 上から言われたことを忠実に実行するより、自ら広い視野で考え、判断することを奨励したのですね。

安井卓:そうですね。このような組織に対する考え方は、昔から大好きだったサッカーから大きな影響を受けています。自らプレーするだけでなく、Jリーグやワールドカップなども熱心に観戦してきたのですが、サッカーと企業の組織論やマネジメント論には共通する部分がとても多いと感じています。

サッカーという競技はルールが極めてシンプルで、選手が自由に動き回れる分、一人ひとりの判断力が戦況を大きく左右します。ボールの動きと、敵・味方双方の選手の位置を正確に把握しながら、自分がとるべきポジションや動きを瞬時に判断しなければなりません。しかも監督はピッチに入って選手一人ひとりに直接指示を出せませんから、選手自らが正しく判断していく必要がある。

これは企業の組織運営においてもそのまま当てはまる話で、チームのメンバー一人ひとりが自ら情報を収集・分析して、自ら判断して動けなくてはなりません。

── なるほど。ただし選手たちがばらばらに動いてしまうと、チーム全体としてのまとまりを欠くことにもなりますよね。

安井卓:その通りです。そのために、監督はチーム全体の戦略を明確に示して、選手をピッチに送り出す前に目指すべき方向性をチーム内に浸透させておく必要があります。名古屋出身の私は名古屋グランパスエイトのファンだったのですが、1994年には最下位争いをしていたチームが、翌年から世界的な名将アーセン・ベンゲルを監督に迎えた途端に強豪チームに生まれ変わったことがとても印象に残っています。

あのとき、選手の入れ替えはほとんど行わなかったにもかかわらず、監督が選手一人ひとりの適性を見抜いて適切なアドバイスを行うとともに、チーム全体の戦略を明示したことで見違えるようなチームに生まれ変わりました。会社の組織もこれと同じで、社員一人ひとりが自律的に判断・行動できたとしても、経営やマネジャーが全体のビジョンとミッションを示してうまくチーム全体を進むべき方向に誘導できなければ、なかなか結果は出ません。

社員が自ら考え、判断する力を引き出すには

── 社員が自ら考え、行動するためには、「会社がどこに向かおうとしているのか」を明確にし、それを常に意識することが大事だと思うのですが、安井さんはどのようにしてLIXILの情報システム部門をまとめ上げ、皆が同じ方向に向かうようにしたのでしょうか。

安井卓:チームの方向性は会社全体の方向性と整合性が取れていなければなりませんから、「会社のビジョンやミッションはこうで、その中のこの部分をわれわれが担っているので、チームのビジョンやミッションはこうだよ」という話を、チーム全員が集まる場で定期的にするよう心掛けています。ただし、「ミッションはこうだから、お前はこれをやれ!」と指示を下すことはありません。こうしたやり方では、社員一人ひとりの自律性やモチベーションを引き出すことはできません。

そうではなく、まずは私自身が積極的に情報発信をしたり、部署の垣根を超えて動いてみせることで、「ああ、こういう動き方をしてもいいのか」「ああやって動けば、こんな成果が得られるのか」と感じてもらえるよう心掛けています。

── ただ単に指示を出すのは簡単ですが、それでは社員自ら判断して行動する機会が奪われてしまうということですね。

DX時代に欠かせない「自ら考え、行動するマインド」をLIXILに浸透させたい——デジタル部門を率いる安井卓氏が仕掛けるコミュニケーション改革03

安井卓:その通りです。自らやってみせることで、賛同者を社内で徐々に増やしていくわけです。こうしたやり方はとても時間がかかるので、つい強制的な指示を飛ばしたくなりますが、焦らず少しずつ仲間を増やしていくしかありません。

その際、マネジメントが気を付けなくてはならないのは、社員が気兼ねなく自由に発言し、行動できるよう、いわゆる「心理的安全性」をきちんと担保しておくことです。また、経営トップの支援を取り付けておくことも大事ですね。社内の文化を変える取り組みは、ボトムアップだけではどうしても限界があるので、やはりトップの理解と協力が不可欠です。

これからの情シスは「専門家以外によるデジタル活用」のサポートを

── こうした施策を進められてきた結果、LIXILの情報システム部門のメンバーの方々はどのように変わってきましたか?

安井卓:正直に言うと、人間が変わったという実感はあまりありません。少し矛盾した言い方になるかもしれませんが、必ずしも人間の価値観を丸ごと変える必要もないと考えています。実際にはメンバーの行動様式はかなり変わってきているのですが、これは考え方が変わったというよりは、これまでさまざまな制約やしがらみに邪魔されて封印されてきたものが、一気に解き放たれた結果だと思っています。

そもそも人間は誰しも赤ん坊のときには言いたいことを言い、やりたいことをやっていたわけで、その後成長するにつれ、さまざまな社会的制約を受け入れながら自身の欲望に蓋をしていくわけです。その蓋をほんの少し取り除くだけで、行動は自然と変わってくるのではないでしょうか。

個人的には、全体の約8割ほどの人間は、もともと自身で判断して行動したいと願っているような気がします。逆に言えば残り2割の人たちは、自身で判断せず指示に粛々と従うことを好むのでしょうが、そうした人たちがいらないかと言えば決してそんなことはありません。それどころか、組織を安定して運営していくためには欠かせない人材です。

── 変化の時代において、企業の情報システム部門はどうあるべきだとお考えですか?

安井卓:今後はデジタル技術がますますビジネスや生活において存在感を増していきますが、一方でデジタル技術を直接扱える人はまだまだ限られているのが実情です。企業の情報システム部門は、このギャップを埋めるために重要な役割を果たします。

これまでの情報システム部門は「ITのプロ」としてシステムの構築や運用を一手に担ってきましたが、これからは専門家以外の人々がデジタル技術を仕事や生活に活かせるよう、さまざまな切り口からサポートするのが主なミッションになっていくのではないでしょうか。

そうやって誰もが気軽にデジタル技術を扱える時代が到来した暁には、ITの専門家集団としての情報システム部門の役割は終わりを告げて、セキュリティとITガバナンスの管理に特化した組織になるのかもしれません。

── 今後ITやビジネスのリーダーに求められるマインドとは、どのようなものだとお考えですか?

安井卓:これまでのリーダー像というと、強力なリーダーシップやカリスマ性でメンバーをぐいぐい引っ張っていくイメージが強かったと思いますが、これからの時代はあまり「引っ張っていこう」と考えすぎないことがむしろ大事になってくるでしょう。

リーダーの最大の役割は「ミッションとビジョンを明示すること」にあります。一方、「お前はあれをやれ」「いいから黙ってついてこい」という指示型のマネジメントでは、いつまでたっても社員の自主性や判断力が育まれませんから、リーダーがいなくなった途端に組織は弱体化してしまいます。

そうではなく、1つのビジョンに向かってメンバー一人ひとりが自ら考えながら、同時に互いに協力し合いながら前に進んでいける組織を作り上げることが、これから先のリーダーに求められることだと信じています。

【取材:辻村孝嗣・後藤祥子(AnityA) 執筆:吉村哲樹 撮影:永山昌克 企画・構成・編集:後藤祥子(AnityA)】


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