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「教師が教師としての仕事」に専念できる環境はITなしには作れない——IT教育の先駆者、岩田智文教諭が語る「改革のスタート地点」

 2021.03.29  BJCC

「仮説をもとに自ら考え、仲間とディスカッションし、導き出された答えを広くアウトプットする」——。愛知県江南市立西部中学校で教鞭をとる岩田智文教諭が目指すのは、そんな授業です。

子どもたちが「変化の時代」をたくましく生きぬいていくために必要なことは何か——。そう考えたときに、「これまでのようなインプット型の教育だけでは足りない」と思うようになり、岩田教諭は新たな授業の形を模索し始めました。

そんな岩田教諭の授業は、生徒の好奇心を刺激する工夫にあふれています。例えば「マインクラフト」を使った科学の授業は、仮想空間でさまざまな物質のブロックを組み合わせ、現実世界ではできないような科学の実験を行えるというユニークなものです。

最近では、校内のさまざまな場所に大気圧を測定できるIoTセンサーを設置し、場所や時間、天気によって空気の圧力がどのように変化するかを考える授業を展開。明らかに「普通ではない」数値を示す場所に、「秘密のセンサー」を隠すというおまけ付きで、生徒たちを夢中にさせました。

このような「これまでにない、生徒の興味をかきたてる授業」を企画するとき、そこには「教師自身が学び、考える時間」が必要だと岩田教諭は考えています。しかし、コロナ禍の今、教育現場の「作業」は増える一方で、これまで以上に「まとまった時間」がとれないのが実情です。

「教師が本来、教師としてすべき仕事をできるようにするにはどうしたらいいのか」——。今回のインタビューでは、岩田氏が教育改革に取り組むモチベーションの源泉と、授業(サービス)の質を向上させるために取り組んでいる「教師の業務効率化」についてお聞きしました。

「教師が教師としての仕事」に専念できる環境はITなしには作れない——IT教育の先駆者、岩田智文教諭が語る「改革のスタート地点」

岩田智文氏プロフィール:愛知県江南市立西部中学校教諭。担当教科は理科。ICTを活用した授業に定評があり、講演活動などICT教育の普及にも積極的に取り組んでいる。Microsoft認定教育イノベーター(MIE)としても活躍。生徒の自発的な学びを促進するための活動が認められ、日本に6人しかいない「MIE FELLOW」に選出されている。

生徒たちの「成長したい気持ち」に応える教育を目指して

—— 岩田先生は、生徒の「知りたい気持ち」を刺激する授業を次々と企画し、Microsoft認定教育イノベーター(MIE)の中でも日本に6人しかいない「MIE FELLOW」に選出されるなど、めざましい活躍をされています。そもそも、どんなきっかけで教師になろうと思ったのでしょう?

岩田智文: 実は、最初は教師になろうという気持ちはありませんでした。高校時代はロボット工学に興味があって工業大学を目指していたのです。

ところが高校3年のある日、担任の先生から「君は教師に向いているから、教育大学を受けてみたら」と勧められたんです。当時から、後輩に勉強を教えたりするのは好きでしたし、相手が理解できるように説明するのも得意だったので、そこを先生は見ていたのでしょう。

先生がそういうのなら——ということで、第一志望をロボット工学が学べる大学にして、第二志望は教育大学にしたところ、第一志望の大学に落ちてしまって……。半分、成り行きみたいな形で教育大学に行くことになったことで、「自分は本当に教師に向いているのか」と、悩むこともしばしばでした。

転機になったのは、大学3年の時に行った中学校の教育実習です。その中学では、長年、剣道を続けてきた経験を買われて剣道部の指導を任されたのですが、初めて本格的な指導を受けた部員たちが、みるみるうちに変わっていくのを目の当たりにしたのです。

「もっと上位の大会を目指したいので、いろいろ教えてください」と部員たちから頼られたら、やる気になりますよね。本気になって指導をしていたら、本当に上位の大会に出場できてしまったんです。

この経験から、「成長したい」という生徒たちの期待に応えるコンテンツを教師が提供できれば、能力が大きく開花する——ということを実体験したんです。これが、「教師の道に進もう」と決めるきっかけになりましたね。

—— 教師という職業は、「これからの社会を背負って立つ人間を育てる」という、とてもやりがいがある仕事だと思います。ただ一方で、日本の公立学校の教育方法は昭和の時代から大きく変わっておらず、「時代にあった教育へと変革するのが難しい」と言われることもしばしばです。このような環境にありながら、積極的に新たなアプローチをしている岩田先生のモチベーションの源泉にあるのは何なのでしょう?

岩田智文:外の世界を見て、日本の教育に危機感を覚えたことが大きいかもしれません。海外では、ITツールを「学びの手段」として活用し、教育の質を高めるアプローチが普通になっていることに、とにかく驚きました。

そもそもITに関心があったので、初任の頃から授業でiPadを使ったりしていたのですが、教師になって5年目くらいに、「ITを使うことで、自分が発信する情報量も生徒が受け取る情報量も、もっと増やせるのではないか」と思うようになって、ICT教育に本格的に取り組むようになったんです。

ただ、やはり心が折れるようなこともあって……。どんなことでも、新しいことをやろうとすると、よく思われないことは少なからずありますよね。私にもそんな時期があったんです。ちょうどその頃、シンガポールで行われたMIEの世界教育研修に参加することになって、そこで経験したことが私を大きく変えました。

その研修は、各国のマイクロソフトから推薦された教師たちが集まり、教育の取り組みについて話し、共有することを目的としたもので、そのプログラムに、5〜6人でチームを組んでディスカッションするグループワークがあったんです。

そこで、各国から集まった教師たちが、自らの教育に対する思いや取り組みを発表するのですが、それを聞くとやはり、他の国に比べて日本の教育は遅れていることを実感させられるんです。

とても印象的だったのは、研修に参加した教師が勤める学校の多くで、既に「PCが鉛筆の代わり」になっていたことです。授業でも「WordやExcelを触ってみましょう」というように使い方を教えるのではなく、「こういう成果を生み出すためにITを使いました」「ITを活用して、誰とコラボレーションしました」というように、道具として使うことがあたりまえになっている。ITを使うことが目的ではなく、知りたいことを学ぶための手段として定着しているんですね。

グラフを書いたり、比較したり——といったことはITツールに任せて、その結果をどう解釈し、どう伝えるのか、といったアウトプットや、仲間とのコラボレーションによってどんな新たなアイデアを見つけるのか、といったことに教育の重点が置かれているんです。そうすると当然、生徒のアウトプットの質も上がりますよね。こうした「新しい教育のあり方」を目の当たりにして「このままじゃ、いつまでたっても日本の教育は海外にかなわない」と、思い知ったのです。

もう一つ、印象に残っているのは、どの先生もとても「人として魅力的」だったことですね。みな、教師という仕事に誇りを持っていて、「私はここにこだわって教え方を工夫しているんだ」という“自分なりのノウハウ”を持っている。

「自分はどうか」と振り返ると、当時は、膨大な作業の隙間で「自分なりの授業」について考える——といった状況で、「このままではだめだ」と思い始めました。

教育改革を阻むのは「教師が抱える“作業”の多さ」

—— 日本は世界の中でも教育のIT改革が遅れていると言われています。その原因についてどのようにお考えですか

岩田智文: 私が考える「学校のあるべき姿」は、「教員が教員としての仕事をできる環境が整っている」ことです。当たり前のように聞こえますが、実際には「それ、本当に教員がやるべきことなの?」という“作業”が多々あるんです。

世の中が大きく変わりつつある今、生徒が学ぶべきことも大きく変わっています。変化の時代を生き抜くためには、「情報を咀嚼して自分のものにして、そこに自分なりの考えを付け加えてアウトプットできる人を育てること」が不可欠です。また、これからの「共創の時代」には「仲間とのコラボレーション」も欠かせません。

このような教育を実現するためには、教師が生徒と向き合って個性を見出し、それぞれに合ったアプローチで教えていく必要がありますから、今まで以上に生徒と向き合い、授業にも、彼らが「自分の頭で考えるよう、促す工夫」が必要です。

しかし、現実に目を向けると、教師の「作業」は増える一方で、教師は疲弊しきっています。この1年は、コロナ禍への対応もあって、さらに作業が増えている。時間や心に余裕がないところから、「生徒のためになる工夫や新しい発想」はなかなか生まれてきませんから、こうした状況を変えるためにも、「ITの力で教師の“作業”を軽減すること」が大事だと思うのです。

例えば、コロナ禍での欠席連絡の対応一つとっても、電話で体温を聞いて、症状を聞いて、それを手書きでまとめて——といったように作業フローが多いんです。個人的には、クラウド上に入力フォームを作っておいて、それに入力してもらえば教師も親御さんも楽だし、手間も軽減されるのに、と思うんです。

ITを使って教師の仕事を効率化するための取り組みを始めたら、「もっと生徒のことを考えるための時間ができる」と分かっている教師は少なくないはずですが、今、ただでさえ忙しいのに、効率化のために新しいことを始めるところまで手が回らない、というのが実情だと思います。

—— 岩田先生は、教師の「作業」を減らすためにどんな取り組みをしているのですか?

岩田智文: 現場をITで変えようと思うと、ほかの先生方の協力が不可欠で、けっこう難しいことも多いのですが、幸運なことに昨年、一部の学年でグループウェアのMicrosoft Teamsを導入することができました。

私と同じ学年を教える先生たちが、たまたまITに関心がある人が多かったので、「この学年の教師の仕事にMicrosoft Teamsを使ってみませんか」と提案してみたんです。「職員室に全員が揃っていなくても会議ができるし、ちょっとしたやりとりもチャットで済ませられるから、会議の時間が確実に減りますよ」と説明したら、「やりましょう!」という話になって、いきなり「学年のTeams」が立ち上がったんです。今年(2021年)、運用が2年目に入りました。

—— グループウェアを導入してどんな効果がありましたか?

岩田智文: オンライン会議やチャットだけでも、ずいぶん効率化が進んだのですが、最も役に立ったのが、生徒を外に引率する際の連絡で使った時でした。今までは、予め設定した通過ポイントにいる先生が、生徒が通過するたびにいちいち本部に電話して知らせていたんです。「○○さんが通過しました」「○○さんが来ていません」といった具合です。

「ここを変えてみよう」ということで、私たちの学年では、Teamsのタスク管理ツール、「Planner」を使って、生徒が通過したら画面をタップして本部に通知する仕組みを作りました。引率の先生はいちいち電話をかけなくていいし、本部にいる学年主任も画面上の通過履歴を見れば状況をひと目で把握できるので、負担が大幅に減りました。ここから、「Teamsってすごいね」と理解が深まり、それからは活用が一気に加速して、私の提案もどんどん通るようになりました。

この事例からも分かる通り、やっぱり教師自身がITを使ってみて「便利だ」「効率的だ」と実感することが大事だと思うんです。便利さが分かっていなければ、ほかの先生や生徒たちに本気でITツールを勧められないですから。

—— ここまで理解が深まると、他の学年への展開もしやすくなったのではないでしょうか。

岩田智文: 私もそう思ったのですが、簡単ではなかったですね。他の学年の先生たちを対象に、指南書を作って体験会を開催し、「必要なら手ほどきしますから、みんなでスタートしましょう」と呼び掛けたのですが、体験会止まりでした。

でも、ここまでやってみていろいろと分かったこともあるので、またアプローチを変えて少しずつ浸透させていきたいですね。他の学年の先生でITに興味がありそうな人を巻き込んだり、もっと便利さを実感できるような分かりやすい取り組みを増やしたりして、理解者を増やそうと思っています。

先生同士のネットワークで知見を共有、さらなる活用へ

—— 他校の先生たちを巻き込む取り組みもしているのですか? 

岩田智文: もちろんです。江南市には、教育委員会の公式セミナーがあって、そこから登壇依頼があったら迷わず参加して、IT化の取り組みを話しています。私はMicrosoft認定教育イノベーターとして講演することも多いので、同じ志を持つ先生たちとも情報を共有しています。「難攻不落だった先生に、こんなやり方でITを理解してもらった」という話題は多いですよ。みな、いろいろなアプローチでIT化を進めているので刺激になりますし、心が折れそうな時には心強い存在ですね。

江南市内でも、公務支援チャットを通じて先生と交流しています。相談に答えたり、オリジナルの教材を共有したりして情報交換やコラボレーションしています。江南市内でもっと先生同士のコンテンツ共有が進めば、例えば「コロナ禍での体育大会をどうするか」を考える時にも、他の学校の取り組みを参考にしたり、学校の実情に応じてアレンジしたりできれば、効率よく、よりよい形で実施できるのではないかと思うのです。それにより先ほどの「時間」も作れるようになるはずです。

公立学校で教育改革を実現してこそ意味がある

—— 今後、教育のIT化を推進するために、どんな取り組みをしていきますか?

岩田智文: 「名古屋の、都心からちょっと離れた公立中学の普通の教師が変革を起こす」ことで、「気持ちさえあれば教育改革はできる」ことを伝えたいですね。

たしかに、予算的に恵まれている私立校のような環境のほうが、改革は早く進むと思います。でも、私は、他の学校の先生に、「あの公立中学ができるのなら、自分たちにもできる」と思ってもらいたいのです。

公立学校は「ないないづくし」なので、つい「やらない理由」ばかりを考えてしまいがちですが、私は、「あるものでやったら、ここまでできた」ということを伝えたい。「これでは、使いものにならない」といって諦めるのではなく、与えられたものを100%使い切ってから「これではスペック不足です」「今の環境にこれが加われば、よりよい学習ができますから、予算を検討してください」と言ったほうが、話が通りやすいと思うんです。

よりよい学校教育を目指す先生たちが「“増え続ける作業”を減らすために」ITを使ってさまざまな工夫をこらし、その情報を共有して「教師が教師としての仕事に専念できる環境」と「時間」をつくる——。それこそが、教育改革を進める第一歩になると思っています。

【取材:三原茂・辻村孝嗣・後藤祥子(AnityA)構成・執筆:後藤祥子(AnityA)】


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