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「非IT出身の情シス部長」と「 ITを知り尽くした情シスリーダー」が激論
互いのIT戦略に斬り込んでわかった「新たな発見」とは(前編)

 2023.02.03  2023.02.20

「非IT出身の情シス部長」と「 ITを知り尽くした情シスリーダー」が互いのIT戦略に斬り込む 話してわかった「新たな発見」とは(業務プロセスグループ長前編)01

改革のための戦略や戦術は、企業の規模や文化、IT資産、組織構造などによって異なりますが、成果を上げている企業は、どのようなプロセスで戦略を考え、実行しているのでしょうか——。

今回のキーパーソンインタビューは、これまでと趣向を変えて、改革を推進している2社のリーダーが、互いの戦略について質問しあう形で実施しました。インタビューに登場するのは、総合水処理エンジニアリング大手のオルガノで情報システム部門のリーダーを務める原田篤史氏、歴史ある不動産大手の東急不動産ホールディングスで情報システム部門を率いる本保亮祐氏と柏崎正彦氏。

両社の戦略は、どこが共通していてどこが違うのか。また、話を進める中で、お互いにどのような新たな発見があったのか——。両社の改革プロセスと戦略、戦術を前編、後編に分けてひもときます。

水処理エンジニア出身の情シス部長が改革のリーダーに

—— 前半戦ではオルガノの戦略をお聞きします。原田さんは、水処理のエンジニアから情シス部長になったという異色の経歴をお持ちです。どのような経緯だったのですか?

オルガノ 原田氏: きっかけはコロナ禍の在宅勤務対応ですね。当時、いつ緊急事態宣言が発出されてもおかしくない状態で、在宅勤務が不可避になりつつあったのですが、その体制づくりがなかなか進まなかったんです。これはまずい、ということで、執行役員の1人と私が情報システム部門に乗り込んでいって差配したところ、約1週間で体制づくりの筋道をたてることができてしまったんです。それがきっかけで、情報システム部門の部門長に任命されて、今、この仕事をしています。

今、思えば、いわゆる情シス部門の生え抜きではない「外の視点を持った人間」が情シス部長としてやっていくのには、ちょうどいいタイミングだったのかもしれません。コロナによって働き方が大きく変わりましたし、会社も長期経営計画「ORGANO2030」を策定するなど、改革フェーズに入ろうとしているところだったんです。

「非IT出身の情シス部長」と「 ITを知り尽くした情シスリーダー」が互いのIT戦略に斬り込む 話してわかった「新たな発見」とは(前編)02

変化の時代と言われている今、情シスの経験がなかったがゆえに、一般的な情シスの常識にとらわれずに戦略を考え、それを戦術に落とし込めたのは、ある意味よかったのかもしれません。具体的には、ORGANO2030を読み込んで、会社が目指す未来の中でITはどんな役割を果たしているのか、ITはオルガノのビジネスを成長させる上でどんな支援ができるのか、それを実現するために情報システム部門は何をすべきなのか——といったところをベースにロードマップをつくったのがスタート地点でした。

東急不動産HD 柏崎氏: 情シス部門の経験がない中で、会社の経営方針をITに落とし込むのはかなり難しかったのではないでしょうか? というのも、IT知識がある情報システム部門でも、そこができなくてコンサルタントやSIerに丸投げしてしまい、あとで立ち行かなくなるようなケースもよく耳にします。

 「非IT出身の情シス部長」と「 ITを知り尽くした情シスリーダー」が互いのIT戦略に斬り込む 話してわかった「新たな発見」とは(前編)03
オルガノ株式会社
経営統括本部 業務改革推進部 情報システムグループ長
原田篤史氏

オルガノ 原田氏: ここは本当に嗅覚としかいいようがないんですが……。ただ、前に所属していたのが風土改革や新規事業の立ち上げを企画する部署だったので、改革関連の人脈が多かったのは大きな助けになりました。情シス部長になる前から、改革にまつわる話はセミナーや勉強会で聞いていましたし、情シス部長になってからもいろいろな方に相談しました。作家で「組織変革Lab」主宰の沢渡あまねさん、Box Japanの安達徹也さん、富士通の松本国一さん……ほかにもあちこちに相談しに行きました。

話をお聞きした方々に共通していたのは、たとえベンダーに所属している方であっても、自社製品を売り込もうとするのではなく、友人の1人して真摯に話を聞いてくれたところです。こうした改革の先駆者たちのフラットな考え方と、自分で勉強したことをベースに戦術を考えていると、世間で話題になっている有名なソリューションを深く考えずに導入するのは間違っているのではないか、自社のITリテラシーや文化、IT資産を把握した上で「自社の身の丈にあった」製品を導入した方がいいのではないか、と思うようになったんです。

たとえば、あるメジャーなSFAの導入を検討したことがあるのですが、よくよく考えると、そもそもオルガノはBtoBビジネスしか展開しておらず、しかも固定の顧客がほとんどなのに、導入・運用コストに見合う効果があるのだろうか、と思ったんです。もちろん素晴らしいツールだとは思いますが、どのフェーズのどの企業にもマッチする、というわけではないですよね。

東急不動産HD 本保氏: たしかにベンダーの立場に近い社内SEだと、「これだけ使える機能があるから、何でもできますよ」という形で提案しがちです。その意味でも、IT部門が原田さんのように業務視点を持つことは大事ですね。

オルガノ 原田氏: あとは社員がツールを使いこなせるかどうかも重要ですよね。

東急不動産HD 柏崎氏: 入力してくれない問題、ですね(笑)

オルガノ 原田氏: そう、きっと入力しない(笑)。でも、それが今の自社の実態であるなら、まずは社員のITリテラシーを上げなければならないですよね。そういうところまで考えた上で、「身の丈にあったツール」を導入しようと思っているんです。

社員のITリテラシー、どうやって向上させる?

東急不動産HD 本保氏: ユーザーリテラシーの話が出ましたが、原田さんはどういう方針で対応していますか? 例えば弊社の場合、IT関連のことでわからないことがあれば、社員が自分で調べられるようにServiceNowを導入しているんです。それでも電話で聞いてくる人もいれば、遠隔操作でどうにかしてほしい、という人もいます。そういう人をどこまで拾い上げていくのか、あるいはどこかで見切りをつけてしまうのか——というところは、いつも柏崎と議論になるんです。

「非IT出身の情シス部長」と「 ITを知り尽くした情シスリーダー」が互いのIT戦略に斬り込む 話してわかった「新たな発見」とは(前編)04
東急不動産ホールディングス株式会社
グループDX推進部 ITサービス企画グループ グループリーダー 上席主幹
本保亮祐氏

オルガノ 原田氏: ドライに聞こえるかもしれないのですが、ORGANO2030に基づくIT施策のロードマップを描いた時に、「経営陣が2030ビジョンと言っているのだから、2030年に会社にいる人のことを軸に考える」という方針を定めました。

東急不動産HD 本保氏: それは説得力がありますね……。

オルガノ 原田氏: 2030年に退職している世代の人に対しては、困ったことがあればサポートして、必要な業務ができるよう支援します。一方、2030年に働き盛りを迎える人は、ITを使いこなせていなければ話にならないので「おもてなし的なサポート」はしません。どういうことかというと、「魚を与える(困りごとを解決してあげる)のではなく、釣り方を教える(ツールの使い方を学んでもらう)」という考え方です。

東急不動産HD 柏崎氏: その方針を浸透させるのはかなり難しそうですね。「ITのことは情シスにやってもらえばいい」という文化が根付いている組織で「ツールの使い方」を教えようとしても、「ITを使いこなすのは自分の仕事じゃないから、そっちでやってよ」ということになりかねません。そこを変えようとすると、文化を変えるところに踏み込むことになりますよね。どんな取り組みでマインドを変えていこうとしているのですか?

オルガノ 原田氏: たしかに難しいところではあるのですが、かなりラジカルに進めました。ただ、このような「文化を変えていく施策」では、コミュニケーションが大事なので、そこは丁寧に取り組んでいます。

理解を得るために行ったのは、全社チャットへの「オルガノの未来予想図」の投稿です。どういうことかというと、経営陣が発表した経営計画を「だれもがわかりやすい形」で示し、自分ごととして捉えられるようにしたんです。具体的には、「2030年のオルガノは、こんなITツールを使ってこのような働き方をしている。それはこんな新たな価値につながっていて、それがこのような形で顧客の価値の創造につながっている」——ということを説明しています。

そうすると、次第に「そうか、このような未来を目指すなら、ITを使いこなさないと話にならないのか」と、理解してくれる人が増えてきたんです。今はまだ少数派ですが、彼らが周りを巻き込みながら動いてくれているので、だんだんと新しい考え方が広がりつつあります。

東急不動産HD 本保氏: その「未来予想図」は、オルガノが目指す未来の話とツールレベルの話の両方で構成されているのですか?

オルガノ 原田氏: おっしゃる通り、その2つで構成しています。オルガノが2030年にありたい姿を示すと同時に、ツールレベルで「三種の神器」の話をしています。

三種の神器の1つは「データ共有」のためのツールで、今はBoxを使っています。情報を紙ではなくてデータとして共有していこう、という考え方です。2つめは「コミュニケーション」のためのツール。現在はTeamsを使っており、今後は「テキストによる非同期のコミュニケーションを軸にしていく」という考え方です。

3つめは、これからのビジネスに欠かせない「データを知る」ためのツールです。コードを書かなくてもデータを扱うためのアプリを開発できるKintoneを使って、「データとは何か」ということを知ってもらおうとしています。

まずは、「この三種の神器をパーフェクトに使いこなせたら、次のフェーズにいける」——という世界観を示して、その後に、それぞれのツールでどんなことができるのかを解説し、「まずはできるところからツールを使ってみながら、皆で学んでいこう」と呼びかけました。

ただ、三種の神器のツールについては、今後、もっと良いツールが登場したら変えていくと思います。オルガノのありたい姿を実現できるツールで、かつ、私たちの成長度合いに合ったものを入れていこうという考えです。

東急不動産HD 柏崎氏: 三種の神器を使いこなせるようになった社員の方たちは、どんな成長を見せていますか?

オルガノ 原田氏: 驚くような成長を遂げている人もいますね。情報システム部門のメンバーでもないのに「APIを叩くとこうなるはずだから、APIを解放してほしい」といってくるような人もいます。

少し前までは弊社も、システムをオンプレミスのスクラッチ開発で作り込んでいたので、情シスに頼まないと何もできなかったわけです。でも、SaaSは探せばいくらでも情報が出てくるので、興味を持った人は自分で勉強してどんどん使いこなせるようになっていきます。この三種の神器の使いこなしでは、情報システム部門のメンバーより上をいく社員もいるほどです。

東急不動産HD 柏崎氏: 社員のITリテラシーが上がってくると、情報システム部門でも教育のし直しやマインドを変えるための取り組みが必要になってきますね。

オルガノ 原田氏: 全社チャットをみれば、状況が変わりつつあることは情シス部門のメンバーにもわかるはずなので、自分がどんな情シスを目指すのかはそれぞれに任せています。社員のスキルが上がっているのを目の当たりにして、自分もスキルを高めたいと思うなら、情シスだからこそできることをやればいい。例えばBoxとTeamsの連携について考えたり、今後のデータ統合やセキュリティに役立つツールについて学んだり——といったことですよね。

今まで通り社員を助けたいと思うなら、もちろんそれも情シスの大事な仕事ですから、そこで価値を発揮すればいい。基本的にはどちらのタイプの情シスも同じように評価します。

自ら考え、行動する情シス部門になるために

東急不動産HD 柏崎氏: 三種の神器を使いこなす社員が出てきたり、おもてなしだけでない情報システム部門のスタッフが育ち始めたりと、改革の成果が出はじめていますが、次のステップとしてどのようなことに取り組もうとしていますか?

「非IT出身の情シス部長」と「 ITを知り尽くした情シスリーダー」が互いのIT戦略に斬り込む 話してわかった「新たな発見」とは(前編)05
東急不動産ホールディングス株式会社
グループDX推進部  ITサービス企画グループ ITスペシャリスト
柏崎正彦氏

オルガノ 原田氏: 自ら考え、行動する情報システム部門を目指したいですね。というのも、改革マインドの醸成というのは一筋縄ではいかなくて、現状では私が「仮想敵」になることで情シスが団結するよう、仕向けている面もあるんです。

どういうことかというと、「なぜ、このSaaSを入れたいのに許可が出ないのか」「なぜこれまで通りの情シスのあり方じゃダメなのか」といった声が上がった時に、その判断をしているのは私なわけで、情シス部門のメンバーは「原田のせいで……」みたいな気持ちで一致団結するわけです。

とはいえ、このようなやり方は健全じゃないですし、私という敵役がいなくても、内発的動機で動ける組織になることが大事ですから、そこに向けたマインドの変革を進めようと思っています。

東急不動産HD 柏崎氏: どのような方法でマインドを変えていこうとしているのですか?

オルガノ 原田氏: IT部門の課題である「データ統合」をきっかけにできれば、と思っています。というのも、この分野ではみんな、つい目の前の効率化に走りがちですが、データガバナンスまで考えると、長期的な施策になるはずなんです。

こうした取り組みは長期で考えることが重要——というコンセンサスが得られたら、「目の前の便利さでツールを入れよう」というのではなく「将来を見据えた上でツールを選び、使いこなそう」というマインドになり、そこから内発的動機で動ける組織になるんじゃないかと思っているんです。

—— それを、Kintoneでやろうとしているんですね。

オルガノ 原田氏: そうなんです。必要なアプリをKintoneで開発し、アプリを通じてデータを扱うことで「データはこんなことにも使える」とか「このアプリで作ったデータは、こっちのアプリでも使えそう」という気づきがあちこちで生まれはじめています。このようなことができるようになったのもローコード・ノーコードツールのおかげであり、本当にいい時代になったと思います。

—— Kintoneを使っている人たちの意識は変わりましたか?

オルガノ 原田氏: 大きく変わりましたね。実はKintoneで開発したアプリは、他の人と共有できるよう、チャットツールのTeams上でグループをつくって公開できるようにしているんです。そこでお互いに開発したアプリを紹介したり、プラグイン情報を共有したりしているのですが、次第に部門を超えた横のつながりができてきたんです。

そうすると、「そのDB、うちでつくっているよ」とか、「マスターデータ、交換しない?」というコミュニケーションが始まって、そこからアプリ開発やデータ活用がさらに活性化する、という流れになりつつあります。

東急不動産HD 柏崎氏: なるほど。そのようなコミュニケーションを重ねるうちに、別々にあるマスターを1つにしたくなってきて、次は人事データから流し込んだほうがいいということに気づいて、いずれは「マスターデータは1つのほうがいい」というデータ統合の考え方につながっていくわけですね。

オルガノ 原田氏: まさにおっしゃる通りで、今、まさにその流れができつつあります。そこで注意しているのは、いきなり大きな仕組みを実装しようとするのではなく、まずは自分たちでつくれるところから始めて、つくった後にどうつなぐかを考えよう、ということですね。遠回りではあるのですが、まずは自分たちでプロセスを考えるようにしています。この段階を経ずに進めると、ツールに使われることになってしまうので。

私たちが目指すのは、ツールに使われるのではなく、ツールを使いこなして顧客のための価値を創出する世界です。ITの主導権を手放さずに自分の頭で考え、会社の目指す世界を実現するためにITで貢献できたらと思っています。

最初にもお話しした通り、私はITのプロではないですが、「ありたい姿から逆算してどう動くかを考え、わかりやすく伝える」ことと、「全体感を捉えた上で部分の施策を考える」ことが強みなので、これからもこの強みを生かしながら改革を進めていきたいですね。

原田氏がリードする「自ら考え、行動する情報システム部門」への道のりは、確実に前進しているようです。後編では東急不動産ホールディングスのお二人に、原田さんが斬り込んでいきます。

【構成・執筆:後藤祥子(AnityA) 撮影:永山昌克】


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