Box Japan Cloud Connections 第7回Meetup
開催レポート:コロナ禍はシステム刷新のチャンス?
「予期せぬ実践」から見えてきた課題と解決への道

 2020.07.20  BJCC

「デジタルワークプレイス」をテーマに、DX時代の企業システムのあり方を考えるコミュニティ「Box Japan Cloud Connections(BJCC)」が6月17日、第7回Meetupを開催しました。今回のテーマは「コロナ禍の情シス苦労話〜リモートワークの理想と現実〜」。Zoomを使ったオンラインで開催された今回のイベントは、参加者からの質問を交えながらのパネルディスカッション形式で進行されました。

今回のテーマについて、BJCCのコミュニティリーダーでモデレーターを務めた原田修平氏は、「このコロナ禍という状況下で情報システム部門は、かつてないスピードでテレワークに対応せざるを得なくなり、さまざまな現実的な課題に直面したのではないかと思います。そんな大変な思いをされた方々に、『リモートワークに対応することになって困ったこと、苦労したこと』をお聞きし、『今後、プライオリティを上げて取り組むべきことは何か』について、皆さんと一緒に整理していきましょう」と話し、ディスカッションをスタートさせました。

パネリストとして参加したのは、株式会社ポケモンの篠原大輔氏、株式会社CDGの岸竜二氏、株式会社野村総合研究所の佐藤俊輔氏の3人です。

Box Japan Cloud Connections 第7回Meetup 開催レポート:コロナ禍はシステム刷新のチャンス?「予期せぬ実践」から見えてきた課題と解決への道

今回の登壇者。左上から時計回りにJBCC コミュニティリーダーの原田修平氏、株式会社ポケモンの篠原大輔氏、株式会社野村総合研究所の佐藤俊輔氏、株式会社CDGの岸竜二氏

篠原氏は、ポケモンの情報システム部門に所属しています。ポケモンは、大人気ゲーム「ポケットモンスター」に関するブランドマネジメント全般を事業領域としており、同氏は「以前からBCP対策を講じていたものの、リアル店舗として展開する『ポケモンセンター』の運営や、ゲーム、グッズの開発などを手掛ける上では、新たな対策に追われることもあった」と振り返りました。

CDGの岸竜二氏は同社の管理部で情報システムを担当しており、大阪勤務という点が他の参加者と異なる点です。同社はマーケティングやセールスプロモーションの企画立案等を主軸の業務としており、オフィスが東京、大阪、名古屋、札幌、福岡と分散していることから、今回のコロナ禍をきっかけにテレワークの課題が見えてきたといいます。

株式会社野村総合研究所(NRI)で上級テクニカルエンジニアを務める佐藤俊輔氏は、OAインフラエンジニアとしてNRI内部のデジタルワークプレイスの構築/企画運営に携わっており、その視点から社内のコロナ対策を支援したそうです。

BCP対策を進めていたものの……予想外のトラブルも

イベントではまず、各社が行った災害対策/BCPへの取り組みが紹介されました。

「東京五輪の開催で都内のオフィスに出勤できない可能性を想定し、対策を講じていたことが奏功した面も大きかった」——こう話すのは、ポケモンの篠原氏。同社では、VPNを廃して「ゼロトラストネットワークを作る」という強い意志の元で導入の準備に着手していたといいます。

「2011年3月11日に起こった東日本大震災の被災経験から、既に、社内のクラウド化が進んでいました」と話すのは、CDGの岸氏。同社は震災時に「社内で運用していたサーバの上にディスプレイが落下し、その衝撃でHDDがクラッシュする」という被害を被ったことからSaaSを活用し始めたところ、サーバ管理等の負荷が大幅に軽減されることが分かり、さまざまな業務のSaaS移行が進んだといいます。今回のコロナ禍ではSaaS化していたことに助けられたことも多かったそうです。一方、BCPに関しては社内ネットワーク(社内LAN)に頼らず、自宅から、外出先からWi-Fi環境やモバイル環境からインターネットを経由して会社で利用するSaaSに直接アクセスできるネットワークのゼロトラスト化が進行している状況です。

BCPに関しては「ユーザー企業のお客さまに提案する立場」であるNRIの佐藤氏は、自社の状況を振り返り、「理論上は全社員がVPN接続できる規模の環境が整備されていたものの、実際には社員と一緒に働く社外のパートナーまではカバーできていなかったことが見えてきた」と話しました。

意外と多い「自宅に固定のネットワーク環境がない」問題

コロナ禍によってテレワークに切り替える企業が増える中、情報システム部門のスタッフを悩ませたのが、社員の自宅のネットワーク環境問題でした。モデレーターの原田氏から「コロナ対策で生じた予想外のトラブル」について聞かれたCDGの岸氏は「自宅に固定のインターネット環境がない社員が少なからずいた」ことを挙げ、対策に苦慮したことを明かすと、会場からは驚きの声が上がりました。

特に若い世代の社員は「自宅ではスマートフォンだけで充分」という考えから固定回線/ブロードバンド接続等の契約をしていない社員も少なくない状況だったそうで、岸氏は「彼らにとってはそれが合理的な判断だったんだろう」と理解を示しつつも予想外の事態に戸惑ったといいます。

この問題は他社でも見受けられ、ポケモンの篠原氏も「自宅にネットワークがない人がいたのは当社も同様。『会社が回線を引いてあげたら』という意見も出たが、その対策の是非や不公平感などが懸念されて、結局はスマートフォンの通信コストの一部を補助するなどの対応で乗り切った」と、自社の対策を紹介しました。

今回の緊急事態宣言発令の結果、多くの社員が「自宅から接続することを余儀なくされた」点が問題だったという指摘もありました。つまり、自宅にネットワーク環境を用意しなくても、「必要に応じて、Wi-Fiを利用できる店舗やコワーキングスペースに行けば大丈夫」と考えていた人も多く、社員にとっても情報システム部門にとっても今回の「ほぼ外出禁止」という事態は想定外だった——という声がイベント参加者からも挙がっていました。

さらにNRIの佐藤氏からは、「ビデオの帯域が増えている点が課題で、従来型の集中型のLANだとボトルネックの解消が難しい」という指摘もありました。在宅勤務の増加に伴ってビデオ会議システムの利用が急増したことで、ネットワーク回線の帯域が逼迫傾向になり、スマートフォンユーザーを中心に「ギガが足りない状況」に陥るケースも少なくなかったようです。

こうしたトラブルは、常日頃から「最先端のITソリューションをどう使いこなすか」を考えているIT/情報システム部門の担当者にとっては、逆に「想定外の問題」だったようです。参加者からもさまざまな反応が寄せられ、ネットワーク問題への関心の高さが伺えました。

コロナ禍は“脱VPN”のチャンス?

今回のパネルセッションで話題になったのが、「脱VPN」「ゼロトラスト化」というキーワードでした。それは、今回のイベントに参加したパネリストの所属する企業がみな、何らかの形で「VPNからゼロトラストへの移行」を検討していたことからも分かります。

特に積極的な対応を進めていたのがポケモンで、同社の篠原氏はモデレーターの原田氏からの「不要だと判断して捨てたものはある?」という質問に「VPN」と即答していました。同社ではコロナ禍以前から、VPNからAkamaiの“Enterprise Application Access(EAA)”への移行を実施しており、ちょうどコロナ禍の対策に間に合うタイミングだったそうです。

リモートワークや在宅勤務を急遽、実施するという程で、企業は「社員が自宅から業務を行う際のセキュリティをどう確保するか?」という課題に直面することになりますが、VPNの接続数を充分に確保するのは容易ではありません。こうした背景から今後は、セキュアなテレワークのための環境を「どのような方針で整備すべきか」を検討することが重要になりそうです。

NRIの佐藤氏も、今回のコロナ対策で見えてきた課題として「ネットワークのトラフィック溢れの対策」を挙げつつ、「気持ちとしてはNRIもゼロトラストの方向に進みたいと思っているが、業務が破綻しないように注意深く進める必要がある」と話します。その背景には、「社員やパートナーの数が非常に多いため、ドラスティックに変えるのはなかなか難しい」という事情もあるようで、この辺りは理想と現実のすり合わせという情シスが常に直面する課題ともいえそうです。

次に登壇各社が今後の展望について話しました。ポケモンの篠原氏は自社の経験から「物理的なモノが介在する部門での不満が大きい」と指摘。これは、物理的な商品を扱う仕事をしている人たちはテレワークが困難なため、テレワークで対応できる業務内容の人との間で「不平等感」が出てしまうという問題です。こうした課題も踏まえつつ同氏は、「できないから仕方ない、ではなく、できることを考えていく必要がある。“テレワークでできること”を限界までやっていきたい」と語りました。

CDGの岸氏は「経理や労務など、緊急事態宣言が発令されたにもかかわらず在宅勤務ができなかった部門に対しては、在宅でも業務が行えるよう、物理的な印鑑業務を廃止して電子化したり、紙の業務を減らして業務フローそのものもデジタル化していく必要がある。労務システムが古くて時差出勤に対応できないといった問題もあったため、システムの入れ替えも検討していく」とする一方で、「会社では“今後の働き方をどうするか”という議論が始まっており、オフィス不要論も出ている。そもそも会社の業務は“収益を上げるために”やっていることなので、オフィスと在宅のどちらが収益が上がるのか——という観点でフルスクラッチで検討していく必要がある」と話しました。

NRIの佐藤氏からは、情シスが変わっていくことに関して「大企業では難しい面もあるが、KPIを変えることで変化を促進し、新しいことに取り組むためのモチベーションが生まれるようなKPIを工夫すべき」との提言もありました。

なお、今回のコロナ騒動では、学生や求職者の意識にも変化が見られたようで、ポケモンの篠原氏によれば、企業の求人に応募してくる人たちから「どのような働き方が可能なのか」という質問が増えているといいます。そこでテレワークや在宅勤務も含めたさまざまな働き方ができる体制をつくっていると答えられる企業はイメージが大きく向上するそうで、ポケモンでは「新卒採用の応募人数が急増した」と、働き方改革の効果を紹介しました。

ITシステムを整備し、働きがいがある環境を実現することは、単に社内向けの効果に留まらず、社会全体に広くアピールする意義ある取り組みといえそうです。

「ニューノーマル時代の情シス」はどうあるべきか

今回のディスカッションで浮かび上がってきたのは、コロナ禍をきっかけに、企業は「新しい働き方」にシフトせざるを得ないことと、それを推進するには情報システム部門が不可欠ということでした。それをふまえて、議論は「こらからの情報システム部門のあるべき姿」に移りました。

岸さんは、「いつ、どんなことが起こってもITで解決できる素地を作っておくことが重要」という考えを示しました。そのためには、情報システム部門が常に最先端のツール類の情報を仕入れ、「このツールを使えば社内はこう変わる」というイメージを持っておくことが重要になると話します。

「いくら情シスが便利なツールを紹介しても、使う側が課題感を持っていないとどうしてもいい反応は得られません。その点、コロナ禍のようなリモートで働くことを余儀なくされている時に便利なツールを紹介すると、導入がスムーズに進むと思います」(CDGの岸さん)

ポケモンの篠原さんは、全社を俯瞰してビジネス課題を解決するためには、情報システム部門が経営企画部の下に置かれるのがいいのではないかと指摘します。

「企業の中では、経営企画部が全社的な企業の課題を把握しているはずなので、その課題に対して常に最新の情報を持って“ITでどう解決できるか”を考える体制を整えるのがいいのではないかと思っています。実際、そのような体制をとっている企業は、非常事態が起こった時の動きも早いし統制も取れていて、部門がIT部門に相談せずに勝手なことをするようなケースも少ないと聞いています。そうした環境下では、情シスが頼りになるという意識もできてくるでしょうから、“何かあったら情シスに相談する”という文化も根付きやすいのではないでしょうか」(ポケモンの篠原さん)

篠原さんはまた、IT投資についても言及し、情報システム部門が直面しがちな「少ない予算の中で知恵を絞ってどうにかしろ」という体制にメスを入れたと言います。「システムを導入し、進化させていく上ではどうしても必要なコストはかかるので、“知恵を絞ってやれ”といわれても限界があります。情報システム部門のトップは、声の大きい部門の言いなりになるのではなく、きちんと交渉して予算をとってくる力をつけるべきです」

そのためにも、情報システム部門は普段から現場とコミュニケーションを取り、現場の課題を吸い上げ、それを解決するための提案をして信用を勝ち取らなければならないとも指摘しました。

NRIの佐藤さんは、情シスの脱コストセンター化を目指すための方法に言及しました。

「事業部と情報システム部門が一体化するような体制を作り、自分たちの社内システムを外のお客さんに売り込むことをミッションにしたら、情報システム部門の人たちの考え方も、社内の見方も変わるのではないでしょうか。実際、私自身が事業部に所属しながら情報システム部のITインフラを担当するという位置づけなのですが、お客さんに提案する時の事例として自分たちの取り組みを紹介したり、説明に出向いたりということがけっこうあるんです。それは自社の中で新しいことに挑戦しようというモチベーションになったりするんですね。実体験からも、そういう体制を作ったりするのは面白いんじゃないかなと考えています」(NRIの佐藤さん)

今回、コロナの渦中に登壇頂いた各社は、働き方改革の取り組みの一環として、また、東京五輪期間中の業務継続に向けた施策として、脱VPNの取り組みやゼロトラストセキュリティの推進など、いつでもどこでも働く環境にアクセスできる「テレワーク」を想定したデジタルワークプレイスの構築に積極的に取り組んでいた印象を受けました。

しかし、それにも関わらず、想定を超えるさまざまな課題に直面し、その対応に各社が苦慮したこともまた、同時に伝わってきました。決してDXへ取り組んでいなかったわけではなく、予期せぬ実践を余儀なくされたことから、企業にとって「DXができていない部分」が浮き彫りになったのかもしれません。今回の各社の検討や対応はその場しのぎの一過性のものではなく、これらの企業が求められるデジタルワークプレイスの根底となるものだったと感じました。

各社の取り組みは、新しい時代の働き方を支えるデジタルワークプレイスの構築を検討する人たちにとっては、大きなヒントになったのではないでしょうか。BJCCでは、これからも継続して新たな時代の働き方とそれを実現する方法について、さまざまなイベントやWebサイトを通して情報発信を続けていきたいと思います。

【執筆:渡邉利和 編集:後藤祥子(AnityA)】


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